東京銀座クリニック
 
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COX-2阻害剤の最近の話題について:心血管系副作用に関する議論、抗腫瘍効果など

 

多くのがん組織においてCOX-2活性が高まっており、COX-2活性の阻害が、がん細胞の増殖抑制や血管新生阻害や転移抑制に有効であることは多くの研究で明らかになっています。
COX-2阻害剤のセレブレックス(一般名:Celecoxib)には、抗がん剤の治療効果増強やがんの再発予防などの効果が報告されています。

しかし最近、COX-2阻害剤の長期服用によって心臓発作のリスクが高まる可能性が報告され、セレブレックスの使用にも注意が喚起されています。
心臓発作のリスクを高める作用は製剤によって異なり、一部のCOX-2阻害剤では心臓発作のリスクを明らかに高めるために発売中止になったものもあります。セレブレックス(Celecoxib)については、心臓発作のリスクを高めるという報告と、そのような作用は認められないという報告があり、まだ結論はでていません。
効く薬には副作用がつきもので、要はメリット(抗腫瘍効果)とデメリット(副作用)のどちらが大きいかという判断になります。

虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)を持っている人は、がん治療に対するメリットとの兼ね合いで慎重に使用すべきですが、その判断材料として、セレブレックスに関する最近の研究を知っておくことは大切です。
専門的な文献の紹介では難解なので、ここではMedical Tribuneの記事から、最近のCOX-2阻害剤に関する話題を抜粋して紹介します。

●coxib系COX-2阻害薬:選択に迷う米国医師 [Medical Tibune:2005年2月3日 (VOL.38 NO.5) p.57]

〔ニューヨーク〕 変形性関節症や関節リウマチ患者に対して,新世代の抗炎症鎮痛薬であるシクロオキシゲナーゼ(COX)-2阻害薬を採用するか,アスピリンなどの旧世代薬を処方するかを決定する際,米国の医師は,消化管出血リスクか心血管リスクのいずれを重視するかの選択を迫られている。

celecoxibは製造継続:
 昨秋,臨床試験でCOX-2阻害薬rofecoxib(Vioxx)が心血管イベント発生リスクを増大させることが確認されたことを理由に,米Merck社は同薬の販売中止を決定した。この衝撃的な決定の以前に,米食品医薬品局(FDA)はPfizer社が販売する別のCOX-2阻害薬valdecoxib(Bextra)について,手術後の心血管イベント発生リスクの増大が同じく臨床試験で確認されたとして,警告ラベルの添付を勧告していた。
さらに,その後,celecoxib(Celebrex)に関する800mg/日投与試験で,400mg/日投与でもプラセボ群に比べ2.5倍の同リスクの増大が示され,coxib系COX-2阻害薬にまつわる波紋はさらに広がっている。
 興味深いのは,coxib系COX-2阻害薬の心リスクに関するこれらの最新知見は,関節炎や心血管疾患の検討を目的とした試験から導き出されたものではなく,大腸ポリープに対する同薬の有効性を検討するために米国立癌研究所(NCI)が実施した試験の結果であることだ。このため,FD AのLester M.Crawford副長官は「Pfizer社に対しては販売中止命令を出すか,製品に厳密な警告を標示したうえで販売を継続させるかを目下検討中である」と述べた。
 しかし同社は,同薬は通常,NCIの癌予防試験における投与量よりも低用量で処方されているとして,製造中止予定はないと発表。さらに,celecoxib 400mg/日を投与した別の試験でも,心リスクの増大は認められなかったと反論している。

医師の反応を二分:
 これにより,米国ではCOX-2阻害薬の処方を全面中止してアスピリンやナプロキセン,イブプロフェンに加えて,おそらく胃粘膜保護薬を補助的に処方する治療に逆戻りする医師と,低リスクで大きな鎮痛効果を有するというCOX-2阻害薬の特徴を評価し,患者によっては同薬の処方を継続する医師とに分かれることになるであろう。
 例えば,New York Timesによると,ニューヨーク大学(ニューヨーク)関節疾患病院の医学専門最高責任者であるH. Michael Belmont博士は,coxib系薬に関するこの最新研究について「同試験の目的は心血管イベントを検討することではなかった。したがって,celecoxib群のほうに喫煙,過体重,心疾患既往患者が多かった場合,同薬を否定する今回の知見は公平なものではない」と述べ,心血管疾患の高リスク患者を対象に含んでいたのか否かを考慮していない試験に基づいて,同薬の販売中止を決定するのは時期尚早であるとしている。

患者の不安から投与中止例も:
 現在,NCIの助成でさまざまな癌に対するCOX-2阻害薬の予防・治療効果を検討する試験がほかにも約40件実施されているが,これらの試験は継続されるという。
 一方,Brigham and Women's病院(ボストン)リウマチ学のElinor Moody博士は同紙にコメントを掲載し,「自分の患者の多くが心事故に関する最近の報道に不安を募らせているため,COX-2阻害薬投与は中止するつもりである。これらの患者をイブプロフェンに切り替えてはいけないという理由は今のところ見つかっていない」と述べている。

リスクはプラセボと同等:
 
Celecoxibに関する悪評が伝わる直前にシカゴで開かれた第 9 回国際変形性関節症研究学会世界会議では,同薬が関係する試験がいくつか発表されているが,心血管の重度な有害事象は全く報告されていない。例えば,Q&Tリサーチ(カナダ・シャーブルック)医学責任者のJ. P. Oulett博士らは,変形性膝関節症患者をcelecoxib 200mg/日群とlumiracoxib(Prexige)200mg/日群に割り付けて52週間追跡する試験を実施しているが,celecoxib群の66.2%で疼痛,機能活動性,疾患活動性の総合評価において有効性を確認。lumiracoxib群においても,改善率はほぼ同等(71.8%)であったと報告している。
 さらに,Westside Family Medical Center(ミシガン州カラマズー)のGary Ruoff博士らは,413例をcelecoxib 200mg/日群,rofecoxib 12.5mg/日群,プラセボ群に割り付けて安全性と有効性を検討するランダム化プラセボ対照試験を実施したが,実薬群は 2 剤とも有効性において同等で,有害事象に関しては 3 群とも同等であったことを確認している。

消化管出血の相対リスクは減少:
 
非選択性の非ステロイド抗炎症薬(NSAID)に戻すほうがよいのか否かを決めかねている医師もいるが,下部消化管障害に関してはrofecoxibとetoricoxib(Arexia)のいずれでも,非選択性NSAID投与より減少したとする報告もある。
 南カリフォルニア大学(USC,ロサンゼルス)内科のL. Laine博士らは,rofecoxibとetoricoxibに関する二重盲検試験でそれぞれ20件と10件のメタアナリシスを実施。重度な下部消化管障害の発生率は,非選択性NSAID群では患者100例当たり年間0.5件(約75%が下部消化管出血)であったのに対し,COX-2阻害薬群は 2 剤とも下部消化管出血全体で45%,重度な出血で52%相対リスクが減少していた。

●COX-2とEGFRが有望な標的に:併用療法の腫瘍抑制効果を追究 [2005年2月3日 (VOL.38 NO.5) p.01]

〔ニューヨーク〕 コーネル大学Weill医学部(ニューヨーク州イサカ)のAndrew J. Dannenberg博士らは,シクロオキシゲナーゼ(COX)-2と上皮増殖因子受容体(EGFR)を標的とした併用療法による腫瘍形成抑制効果の理論的根拠を追究した総説をJournal of Clinical Oncology(2005; 23: 254-266)に発表した。

より有望な分子標的:
 
Dannenberg博士らは「COX-2とEGFRは同定された薬理学的標的のなかでより有望な 2 分子である。前臨床試験ではCOX-2阻害薬とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬との併用による腫瘍形成抑制効果はそれぞれを単独使用した場合よりも高かった」と述べている。
 同博士らは,ヒトの場合,子宮頸部と陰茎だけでなく,頭頸部,食道,胃,結腸,肝臓,胆管系,膵臓,乳房,肺,膀胱,皮膚の悪性腫瘍とその前段階でCOX-2を過剰発現することを指摘。「COX-2に由来するプロステノイドにはさまざまな腫瘍促進作用があるため,COX-2阻害薬の抗腫瘍には理論的根拠がある。ヒトの家族性腺腫性ポリポーシスに関する研究だけでなく,実験動物を用いた遺伝学的研究や多くの薬理学的研究もこの点を強調している」と付け加えている。
 また,同博士らはEGFRが腫瘍形成と疾患の初期の病態に重要な役割を果たしている多くの証拠が明らかにされ,EGFRが化学療法の標的として有望であるという仮説が導かれていることを強調。「EGFRが侵襲性乳癌の予防に適した標的であることを示すいくつかの研究は,この仮説をより確かなものにしている」と述べている。

「併用しない理由はない」:
 Dannenberg博士らは,celecoxibとEGFR阻害のいずれの方法も腫瘍予防法として生き残ると見ており,in vivoではこの 2 つの間に相互作用があることや腫瘍治療には薬剤の併用が多いことから,これらを併用しない理由はないと主張している。
 第III相のランダム化プラセボ対照試験では,7 年以内に進行性の口腔癌が発症するリスクが75%と推定される異形成白斑症患者300例を,EGFR阻害薬EKB-569(25 mg/日)単独,celecoxib(400mg,1 日 2 回)単独,EKB-569とcelecoxibの併用,プラセボの各群に75例ずつ割り付けた。患者はスウェーデン,ノルウェー,デンマーク,フィンランドで募集した。
 同誌の編集者は,この論文に対する後記で,「心血管イベントの発生が多いことを理由にrofecoxibが市場から回収されているが,昨年12月 8 日現在celecoxibとプラセボを比較する臨床試験の解析の途中経過では,血栓イベントの発生に両群で差は認められなかった」と述べている。
 2000年に新たに診断された癌患者は1,010万人,癌による死亡620万人,癌患者2,200万人で,実行可能な癌予防戦略が世界的に必要とされている。同博士らは「これらの統計は,より優れた新しい癌予防法を開発する必要性を強く示している」と述べている。

●COX-2で腫瘍免疫が低下:神経膠腫患者の樹状細胞で明らかに [2004年12月23,30日 (VOL.37 NO.52,53) p.01]

〔ニューヨーク〕 シダース・サイナイ医療センターMaxine Dunitz神経外科研究所(ロサンゼルス)で総合脳腫瘍プログラムを率いるKeith L. Black所長らは,神経膠腫患者の樹状細胞(DC)の腫瘍免疫においてシクロオキシゲナーゼ(COX)-2が悪影響を与えることをin vitroの研究で明らかにし,Journal of Immunology(2004; 173: 4352-4359)に発表した。同所長らは「COX-2を過剰発現させた神経膠腫と接触させると,成熟DCでインターロイキン(IL)-10が過剰発現し,IL-12p70産生が減少する」と述べている。

免疫寛容を誘導:
 Black所長によると,これらの成熟DCはCD4陽性T細胞におけるIL10とトランスフォーミング成長因子β(TGF-β)の過剰産生,IL-4産生の大幅な低下を生じ,種々のリンパ球に対し抑制的に働く 1 型制御性T細胞(Tr1)の反応を誘導する。さらに,高濃度のプロスタグランジン(PG)E2はDC機能を直接調節して,T細胞表現型を 1 型ヘルパーT細胞(Th1)からTr1に変化させる。このPGE2を合成するのがCOX-2である。膠芽腫患者から得た末梢血CD4陽性T細胞においても,COX-2過剰発現神経膠腫に対してはTr1反応が優勢であった。
 今回の研究では,腫瘍細胞におけるCOX-2の過剰発現が,Tr1反応を誘導して免疫を回避するための重要な機序であることが示された。この機序によりTr1反応が優勢になると,DCが提示する抗原に対するリンパ球の免疫寛容が誘導され,免疫応答が低下する。

誘導されたTr1反応で免疫寛容:
 Black所長は「今回の知見は,神経膠腫におけるCOX-2発現とそれに続くPGE2産生が,抗腫瘍免疫反応を抗原提示の段階で低下させる重要な要因であることを示している。未成熟DCをCOX-2過剰発現神経膠腫と接触させるとIL-10発現が有意に高く,IL-12発現が低い成熟DCに分化する。このため,腫瘍周辺部位と全身における細胞性免疫が低下する。これは,この過程で誘導されたTr1反応によりT細胞の免疫寛容が生じるためである」と説明している。
 DCによる貪食を受ける前に神経膠腫のCOX-2発現を抑制すると,抗腫瘍性のTh1反応が保持される。COX-2を選択的に阻害したCOX-2過剰発現神経膠腫をDCが貪食すると,Tr1反応が抑制される代わりにTh1活性が亢進する。
 同所長は「COX-2を抑制することでDCによるIL-12大量産生とTh1反応が誘導できる。今回の知見は,DCを利用するワクチンの臨床試験においてTh1反応を誘導する腫瘍抗原提示を促進する手段として,COX-2阻害薬を使用することを支持するものである」と述べている。

COX-2阻害薬で免疫亢進を:
 
Black所長によると,COX-2阻害は魅力的な腫瘍治療戦略だと考えられているが,種々の腫瘍に関するこれまでの研究結果は一貫せず,時には矛盾している場合もある。COX-2は種々の条件や生化学物質の影響を受ける複雑な酵素であるため,その機序と作用の多くは解明されていない。
 同プログラムのディレクターで同医療センターのJohn. S. Yu博士は「腫瘍はCOX-2を発現することで免疫系の攻撃を回避している。COX-2阻害薬を用いることで,これらの腫瘍は免疫系に認識され,その攻撃を受けやすくなる。われわれは脳腫瘍の臨床試験にcelecoxibなどのCOX-2阻害薬を加えて,今回の知見をさらに追究する予定である」と述べている。
 神経膠腫ではIL-10受容体αは検出されず,遺伝子組み換えIL-10を投与してもCOX-2発現は抑制されなかった。今回の研究は,患者から採取して確立した 2 系統の神経膠腫細胞株と腫瘍細胞を用いて行った。

膠芽腫では調節性反応が優勢:
 Yu博士は「興味深い知見の 1 つは,膠芽腫患者の血中から分離したTh細胞では神経膠腫細胞に対する調節性反応が優勢であったことである。これは,膠芽腫患者のT細胞が調節型に傾いていることを示している」と述べている。
 また,同博士は「これまでの研究と経験から,神経膠腫患者のCD4陽性T細胞では抗腫瘍反応が非常に低いことが示唆されていた。われわれは今回,この現象が神経膠腫と接触するDCにCOX-2が産生するPGE2が作用した結果,抗原提示の段階で抗腫瘍効果のあるTh1反応ではなく,調節性のTr1反応が誘導されたために生じたのではないかと考えている」と付け加えた。
 ヒト神経膠腫においてCOX-2発現と臨床的アウトカムの低さの間に相関があることは,テキサス大学MDアンダーソン癌センター(テキサス州ヒューストン)のTadahisa Shono博士らがCancer Research(2001; 61: 4375)に発表した研究により既に示されている。
 Black所長は「神経膠腫患者で認められる細胞性免疫の低下には,抗原提示過程の異常が関与している場合があると考えている」と述べている。

●COX-2阻害薬:再発性前立腺癌の進行を遅延 [2004年7月8日 (VOL.37 NO.28) p.29]

〔米ルイジアナ州ニューオーリンズ〕 シクロオキシゲナーゼ(COX)-2阻害薬が再発性前立腺癌に有効である可能性がノースカロライナ大学(UNC,ノースカロライナ州チャペルヒル)泌尿器外科のRaj S. Pruthi助教授らによる研究の初期成績で認められ,第40回米国臨床腫瘍学会(ASCO2004)で発表された。

早期発見しても治療法ない:
 この研究結果からCOX-2阻害薬には前立腺癌に対する抗癌作用があり,PSA(前立腺特異抗原)検査により癌の再発が疑われる患者で疾患の進行を遅延させると考えられる。生化学的再発と呼ばれる前立腺癌の初回再発は,年間約 5 万例に見られる。この再発は術後あるいは放射線療法後のPSA上昇で診断されるが,現在のところ有効な治療法はない。併存疾患のない患者の場合,最初に生化学的再発の臨床的徴候が現れるのは数年後になる。
 UNCラインバーガー総合癌センター泌尿器癌総合プログラムの共同責任者でもあるPruthi助教授は,「PSA検査で再発が疑われた場合,幸いなことに最長で 7 年間のリードタイムがあるが,この再発の初期段階で行うべき適切で効果的な治療法がいまだ存在しないのは残念なことである。通常,再発前立腺癌に対する化学療法では,効果と毒性の面で満足のいく結果が得られない」と述べている。
 この研究では,生化学的再発が認められた前立腺癌患者24例にCOX-2阻害薬を投与し,1 年以上にわたりフォローアップした。3 か月後,24例中22例(92%)で有意なPSAの抑制効果が現れ,11例でPSAが低下または安定した。残り13例のうち11例では,著しいPSA倍加時間の減速またはPSA上昇率の低下が見られ,2 例では初期の変化は見られなかったものの,12か月間のフォローアップ期間中にPSA上昇率が低下した。

ホルモン療法の代替法に:
 男性ホルモンを抑制して疾患の進行を食い止めるホルモン療法は,前立腺癌の生理学的再発が見られる患者における疾患の進行,または生存率には影響しないことが示されている。また,ホルモン療法は,無症状の患者において副作用を引き起こす恐れもある。
 Pruthi助教授は「前立腺癌患者の大多数は,癌の臨床症状の発現や転移が認められるまでフォローアップされるのみで,そのような変化が見られてからホルモン療法が開始される。簡便で毒性がなく,効果的な代替治療法を特定する必要があることは明白である」と述べている。
 細胞酵素であるCOX-2は,結腸癌,乳癌,膀胱癌,前立腺癌などの発癌・増殖にかかわることが示されているため,COX-2阻害薬は代替治療法として期待できる。腫瘍増殖に対するCOX-2の作用の正確な分子レベルの機序は不明であるが,腫瘍細胞におけるCOX-2の遺伝子発現の増加は,プログラム細胞死の減少,腫瘍の侵襲性の増加,免疫機能,血管新生または血管増殖の抑制と関連することが報告されている。
 研究では,COX-2阻害薬がヒトの結腸癌,乳癌,肺癌,前立腺癌の組織において抗癌作用を示すことが明らかになっている。最近のエビデンスでは,COX-2がヒトの前立腺癌組織で過剰発現することや,COX-2阻害薬がin vivoとin vitroにおいて強力な抗癌作用を示すことが実証されている。

消化管副作用の増加もない:
 
1980年代後半から90年代にかけて,鎮痛目的で非ステロイド抗炎症薬(NSAID)を服用している患者では結腸癌リスクが低下するというエビデンスが疫学的研究から示されており,より最近の研究ではこのリスク低下は同様に前立腺癌についても見られることが示唆されている。アスピリンなどのNSAIDは,傷害反応により生成され炎症反応を促進することで疼痛,炎症,腫脹を引き起こすCOX-2を阻害する。しかし,NSAIDは常時生成され,胃粘膜の保護を助けるCOX-1の発現も阻害する。このため,NSAIDの服用に関連した消化管の副作用リスクが上昇する。
 米食品医薬品局(FDA)が初めて承認した 2 種類のCOX-2特異的阻害薬の 1 つであるcelecoxibは,1998年に登場した。同薬は従来のNSAIDと同様の鎮痛効果,炎症による腫脹の緩和効果を有するが,胃潰瘍など消化管の副作用リスクが上昇することはない。前癌性結腸ポリープの遺伝的リスクが高い症例にcelecoxibを投与した臨床試験では,ポリープの数が減少した。FDAはこの試験結果を受け,高リスク患者における前癌性ポリープの予防に対しcelecoxibの適用を承認した。
 Pruthi助教授は「COX-2阻害薬により,根治的放射線療法や手術後に前立腺癌が再発した患者における疾患の進行が遅延または予防でき,ホルモン療法を要するまでの時間が延長できると考えている。前立腺癌に対する抗癌薬としてのCOX-2阻害薬の効果は,臨床試験でより明確に評価できるだろう。現段階では適当な治療法がない再発癌患者でCOX-2阻害薬が有効となるかどうかを確かめたい」と述べている。

 
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