東京銀座クリニック
 
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  がんの再発予防に有効なCOX-2阻害剤を併用した漢方療法:

月刊がん「もっといい日」2005年2月号(p.26-27) 

がんを切除しても、常に再発の不安がつきまとう。
再発したがんの治療は非常に困難であることから、最近では再発や転移を予防する第3次予防がクローズアップされている。再発予防の有効な手段はあるのか、西洋医学と東洋医学の二つの視点から第3次予防に取り組んでいる、銀座東京クリニックの福田一典院長に話を伺った。

● がん体質を改善しながら治癒力を高めていく

中医学では、「気血が滞ると百病生じる」という考えがある。福田医師は、「そもそもがんというのは、氷山の一角。水面下にはがんになりやすい体質が潜んでいます。たとえば、血の巡りの異常(お血)、気の滞り(気帯)といった状態にあると、がんを発生しやすくなる」と言う。たとえがんを取り除いても、がんになりやすい体内環境が改善されなければ、再びがんが発生してくるのは自明の理だ。

「体力や気力が低下した状態を『気虚』、栄養状態の障害などを『血虚』といいます。抗がん剤治療後のがんの患者さんは、この両方を合わせた気血両虚に陥っている場合が多く、生命力や新陳代謝が低下した状態の『腎虚』もよくみられます。漢方治療は、まずこのような体質を改善して悪い状態をよい状態にもっていき、治癒力を高めることががん再発予防の基本となります」

西洋医学には、この治癒力を高めるという概念はないが、漢方にはそのノウハウが蓄積されている。では、実際に漢方薬はがんの再発予防において、どのように用いられているだろうか。
漢方には「扶正きょ邪」という考えがあり、簡単にいうと邪は体にとって有害なもの、正気は生体の抵抗力や防御能をさします。漢方は、邪気を取り除き正気を助ける、足りないものを補うのが基本。患者さんの根本原因となる病態を改善するためには、気の巡りを良くし、お血を改善して、血行を促す必要がある」ことから、「駆お血薬」や「補気薬」「補血薬」が用いられることが多い。炎症が認められる患者には、さらに「清熱解毒薬」を使用する。

さまざまな薬理効果を有する、生薬の組み合わせからなる漢方薬には、複数のがん予防のメカニズムが作用する。生薬の成分のなかには、がん細胞の増殖抑制作用、血管新生阻害作用、抗炎症作用を示すものもある。「霊芝、竜葵、半枝蓮、白花蛇舌草、山豆根、蒲公英など、漢方薬には抗がん力を高め、がん細胞の増殖や転移を抑える生薬も多数あります。再発リスクの低いがんの段階なら、駆お血薬、補気薬、補血薬などを基本に、体質改善を目指して再発を予防します。もう少しリスクが高ければ、さらに抗がん生薬を用いてがん細胞の増殖を抑えるというように、患者さんの状態に合わせて生薬の種類や量を加減し、漢方薬を処方します」

● 大腸がんをはじめとするCOX-2阻害剤の抗腫瘍効果に期待

十全大補湯や小柴胡湯のようにがんに対する抑制効果が報告されている漢方薬もある。福田医師は、最大限の治療効果を引き出すために、患者の体力や病気の状態に応じて煎じ薬を使ったオーダーメイドの漢方治療を重視する。

さらにがんの再発リスクが高い場合は、非ステロイド性抗炎症剤のCOX-2阻害剤を併用し、再発防止をはかる。シクロオキシゲナーゼ(COX)は体内に存在する酵素で、COX-1とCOX-2の2種類がある。COX-1が消化器や腎臓、卵巣などに存在しているのに対し、COX-2はがん細胞や炎症細胞などに多く存在する。

このCOX-2が産生するプロスタグランジンE2(PGE2)は、がん細胞の増殖刺激、血管新生促進、抗腫瘍免疫抑制などの作用によって、がんを悪化させるという。福田医師は「がんの治療や再発を予防する場合、単に免疫増強だけをはかることには問題があります。免疫細胞のマクロファージが活性化されると、COX-2が誘導されてPGE2の合成が進む」と注意を促す。

原発がんや転移性のがんの多くにおいて、COX-2の発現が高まっていることが報告されており、「発現の多いがんは転移しやすく、抗がん剤が効きにくい」との報告もある。COX-2阻害剤の一つであるセレコキシブ(商品名:セレブレックス)には、血管新生阻害や増殖抑制効果だけでなく、直接がん細胞を殺す作用や抗がん剤の治療効果を高める作用も報告されている。COX-2が過剰に発現しているがんは、大腸がんを筆頭に、食道がん、肝がん、肺がん、乳がん、前立腺がんなどがあげられる。

福田医師は、「実際に使ってみると、大腸がんや前立腺がんなどは、COX-2阻害剤だけで腫瘍マーカーが下がるケースも多い。また、乳がんなどは漢方と併用すると、より効果的です。COX-2阻害剤は重篤な副作用もなく、漢方との相性もいい」と、手応えを感じている。

COX-2阻害剤と抗がん生薬や清熱解毒剤、駆お血剤など、がんの種類や患者の状態に応じてさまざま組み合わせが考えられる。西洋医学と東洋医学を融合させたこの併用療法は、がんの再発予防にたいへん有効な方法として期待されている。  

資料: 抗がん剤治療後のがん再発は漢方薬とCOX-2阻害剤との組み合せで防ぐ:

症 例 Sさん(57歳、男性)は大腸(横行結腸)に直径が約5cmほどの大きさのガンがみつかり、腫瘍の摘出手術を受けました。手術前には大腸ガンの腫瘍マーカーの一つであるCA19-9が800ng/ml以上(正常は37 ng/ml以下)と高い値でしたが手術後は30まで下がりました。肝臓や肺には肉眼的に見える転移はありませんでしたが、手術の時に摘出したリンパ節の2個に転移が見つかりました。
手術後は内服の抗ガン剤で治療していましたが、8ヶ月後に腫瘍マーカーのCA19-9が100を超えたので検査したところ肝臓に2cmくらいの転移が見つかり、肝臓の転移巣を切除する手術を受け、注射による抗ガン剤治療を受けました。腫瘍マーカーは正常値に戻りましたが、再発する危険が高いので、内服の抗ガン剤を服用すると同時に漢方治療とCOX-2阻害剤(セレブレックス)を使った治療を併用しました。漢方治療開始後3年経過していますが、今の所、腫瘍マーカーは上昇していません。
解 説 全身にばら撒かれえるというガン転移の性質上、もし一個の転移巣が見つかれば、目に見えないレベルの転移巣は他の部位にも存在すると考えるべきです。
大腸ガンの肝臓転移では、目に見える転移が少数であれば転移巣を切除するほうがより長く生存できることが報告されています。目に見えないガン転移巣が肝臓全体に広がっている可能性は高いのですが、大きな転移巣を取り去ったあとに、残った目に見えないガン細胞を抗ガン剤などで増殖を抑制すれば、ガンで死亡するまでの時間稼ぎができるからです。残ったガン細胞が少なければ、免疫力や自然治癒力を高めてやるだけでガンの増殖を押さえ込むことも可能です。
Sさんのようなケースでは抗ガン剤だけでガンを抑え込むことは限界があります。抗ガン剤の副作用で免疫力が低下すれば、残ったガン細胞の増殖が早められる可能性さえあるのです。免疫力を高める漢方治療を抗ガン剤治療に併用することは再発予防に有益であることは間違いありません。
さらに、大腸ガン細胞はCOX-2阻害剤で増殖が抑えられる可能性が高いガンですので、COX阻害剤のセレブレックスを併用すれば、さらに再発予防効果が期待できます。これでも再発の徴候が出てきたときには血管新生阻害剤(サリドマイドなど)の併用を考慮しています。

 
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