シメチジンには血管新生阻害作用とアポトーシス誘導作用がある 

【文献1】Cimetidine inhibits angiogenesis and suppresses tumor growth.(シメチジンは血管新生を阻害して腫瘍の増殖を抑える)Biomed Pharmacother. 59(1-2):56-60. 2005
Natori T, Sata M, Nagai R, Makuuchi M.(東京大学、外科)

(要旨)
固形がんは大きくなるためには血管新生が必要。この研究では、腫瘍組織における血管新生とがん細胞の増殖に対するシメチジン(Cimetidine)の効果を検討した。
マウス( C57BL/6)の皮下にマウス大腸癌細胞(CMT93)を移植し、シメチジン投与群と生理食塩投与群(コントロール)に分けて、腫瘍の大きさと血管新生の度合いを比較した。
CMT93細胞を培養して検討した場合には、シメチジンは増殖を抑えなかったが、マウスに植え付けたCMT93細胞の増殖を著明に抑制した。血管新生を刺激する増殖因子であるVascular endothelial growth factor(VEGF)のがん細胞からの産生にはシメチジンは影響しなかったが、血管内皮細胞の管腔形成過程を阻止することが内皮細胞の培養実験で示された。
つまり、シメチジンは血管内皮細胞の管腔形成を阻害して腫瘍血管の新生を阻害し、がん組織の増殖を抑える可能性が示唆された。

【文献2】
The effect of H2 antagonists on proliferation and apoptosis in human colorectal cancer cell lines.(ヒト大腸がん細胞株の増殖とアポトーシスにおけるH2ブロッカーの効果)Dig Dis Sci. 49(10):1634-40.2004
Rajendra S, Mulcahy H, Patchett S, Kumar P.
Digestive Diseases Research Centre, St. Bartholomew's & Royal London School of Medicine and Dentistry, London, UK.

(要旨)
シメチジンが胃がんや大腸がんの患者の生存率を高めることが報告されている。シメチジンの抗腫瘍効果のメカニズムとして、サプレッサーT細胞活性の抑制による免疫増強作用、がん細胞の増殖抑制などが報告されている。
この研究では、2つの大腸がん培養細胞株(Caco-2 , LoVo)を用いて、がん細胞の増殖や細胞死(アポトーシス)に対するヒスタミン、シメチジン、ラニチジンの影響を検討した。
ヒスタミンは大腸がん細胞の増殖に対して影響しなかった。Caco-2細胞の増殖はラニチジン単独および、ラニチジン+ヒスタミンで抑制された。一方、シメチジンは、Coco-2細胞の活性を、ヒスタミンの存在下でのみ抑制した。
シメチジンとラニチジンはLovo細胞の増殖には影響しなかった。
シメチジンとラニチジンはCaco-2細胞にアポトーシスを誘導したが、LoVo細胞に対してはラニチジンだけがアポトーシスを誘導した。がん細胞に対する直接的なアポトーシス誘導作用がシメチジンやラニチジンの抗腫瘍効果と関連しているかもしれない。

文献2は大腸がん細胞に対してシメチジンが直接的な殺細胞作用を示すことを報告していますが、文献1で大腸癌培養細胞に対して直接がん細胞を殺す作用は無いが、生体に植え付けた場合には、腫瘍の増殖を抑え、その理由として血管新生阻害作用による作用と考察しています。したがって、この2つの報告は、若干矛盾するのですが、どちらもシメチジンが大腸がんに対して抗腫瘍効果を発揮することは共通しています。

●ヒスタミン H2 受容体拮抗薬のシメチジンの抗腫瘍効果について

生体内アミンであるヒスタミンは、炎症反応や胃酸分泌、アレルギー反応など様々な生理反応に関与しています。
ヒスタミンは細胞表面にある受容体に結合することによって細胞にヒスタミンの刺激を伝えます。
ヒスタミンの受容体は現在までに 3 種類のサブタイプ(H1~H3)が見つかっていますが、そのうち H2 受容体は胃酸分泌において中心的な役割を担っており、その拮抗薬であるシメチジンやラニチジンなどは胃酸の分泌を抑える効果により胃炎や消化性潰瘍や逆流性食堂炎などの治療薬として使用されています。

1980 年代後半に デンマークのTonnesen らにより、シメチジンが胃癌患者に対し延命効果を示すことが報告され、その後、大腸癌、悪性黒色腫に対しても同様の効果を示すことが報告されています。
ヒスタミンにはがん細胞の増殖を促進する作用や、細胞性免疫を抑制するリンパ球(サプレッサーT細胞)を活性化することなどが報告されており、そのためシメチジンの延命効果は、癌細胞に対するヒスタミンの細胞増殖促進作用を阻害する機序や、癌細胞に対する免疫力を活性化させ る可能性などが指摘されています。さらに近年では、シメチジンが接着因子 E-セレクチンの発現を抑 制することにより癌の転移を抑制する抑える機序や、インターロイキン 12の発現上昇を介したナチュラルキラー細胞活性化、血管新生阻害作用によって腫瘍組織の増大を阻止する可能性など、新たなメカニズムも報告されています。

しかしながら一方で、ラニチ ジンやファモチジンなど他のヒスタミン H2 受容体拮抗薬を用いた検討においては、それらがシメチ ジンと同等もしくはそれ以上に強力な薬理作用を有するにも関わらず、癌患者に対し同様の効果 が認められないという報告がなされています。すなわちシメチジンの有する延命効果や腫瘍増殖抑 制作用などは、その H2 受容体拮抗作用によるものではなくシメチジン特有のものである可能性も指摘されています。