メラトニンの抗老化作用

● メラトニンとは

メラトニンは脳のほぼ真ん中にある『松果体』と呼ばれる、松かさに似たトウモロコシ1粒くらいの大きさの器官から放出されるホルモンです(図)。メラトニンの原料は、アミノ酸の一種のトリプトファンで、トリプトファンにいくつかの酵素が働いてセロトニンが作られ、さらに別の酵素が働いてメラトニンが出来ます。つまり、メラトニンは体で作られている天然の成分です。
メラトニンは松果体から分泌された後、血液に乗って全身に運ばれ、最終的には肝臓で代謝されます。唾液や脳脊髄液、卵巣の卵包液、胆汁中にも移行します。血液脳関門や胎盤も通過します。メラトニンは松果体の他にも、網膜や消化管からも産生されることが明らかになっています。

メラトニンはヒトの体内時計を調節するホルモンとして知られています。昼と夜の周期に反応して脳の松果体から分泌され、体の日内リズムを調整しているホルモンです。暗くなると体内のメラトニンの量が増えて眠りを誘います。快適な睡眠をもたらし、時差ぼけを解消するサプリメントとして評判になりましたが、最近の研究で若返り作用や抗がん作用なども報告されています。
メラトニンの分泌異常が不眠や時差ぼけや抑うつ、ストレス、生殖能力、免疫異常やある種のがんの発生と関連している可能性が報告されています。がんとの関連においては、特に、乳がんとの関連が研究されています。例えば、夜間の電灯が、メラトニンの分泌の低下を引き起こし、乳がんの発症に関与している可能性を指摘する「乳がん発生のメラトニン仮説」も提唱されています。盲目の人には乳がんが少ないという報告や、夜間勤務の人には乳がんが多いという報告があり、これらはメラトニンが多く分泌される状況にあると乳がんの発生が抑えられ、夜間勤務のようにメラトニンの分泌が抑えられると乳がんが発生しやすい可能性を示唆しています。
メラトニンには抗酸化作用や免疫増強作用やその他多くの抗腫瘍効果があるというのが、がんのメラトニン仮説の根拠になっています。メラトニンの抗腫瘍効果は、実際に多くの臨床試験で確かめられています。

メラトニンは子供の頃は多量に分泌されますが、思春期をすぎると急激に分泌量が減り、年齢とともにさらに減っていきます。子供は夜になると自然に眠り、年寄りは睡眠時間が短くなって不眠症や時差ボケになりやすいのは、メラトニンの量が少ないからだという考えもあります。
メラトニンの体内量が増えれば若返られるのではという議論が起き、マウスで実験したところ、30%くらいの寿命が伸びるというデータが出ました。他にもぼけ防止がん予防効果などの作用が認められ、アメリカでは抗老化ホルモンとして一気にブームになりました。

図:メラトニンは脳の松果体から分泌されるホルモンで、体内時計の調節、免疫力や抗酸化力の増強、抗がん作用や抗老化作用などの効果がある。

● メラトニンは抗酸化力を高める

メラトニンには抗酸化作用があり、活性酸素によるダメージから細胞を保護します。脳細胞の酸化を防ぐことにより、痴呆やアルツハイマー病やパーキンソン病を予防できるのではないかと期待されています。
メラトニンの抗酸化作用は、活性酸素だけでなく、一酸化窒素や過酸化脂質など様々なフリーラジカルを消去できることが特徴です。毒性の強いヒドロキシラジカルはメラトニンによって効率的に消去されます。不飽和脂肪酸の酸化によって生じるペルオキシラジカルを消去する活性はビタミンEよりも高いことが知られています。メラトニン1分子は4つ以上のフリーラジカルを消去できます。
メラトニンはフリーラジカルを消去して自身が酸化されても、酸化剤(pro-oxidant)として副作用は起こらないと言われています。
さらに、グルタチオンペルオキシダーゼ、スーパーオキシドデスムターゼ、カタラーゼなどの細胞内の抗酸化酵素の活性を高める効果も報告されています。逆に、フリーラジカルを産生する酵素(リポギシゲナーゼ、一酸化窒素合成酵素など)の産生を抑制する効果も報告されています。
このような多方面の抗酸化作用によって、メラトニンは細胞膜の脂質や細胞内の蛋白、核内のDNA、ミトコンドリアにおける、フリーラジカルによるダメージを防ぎ、その結果、これらの細胞成分の酸化によって生じる病気(がん、動脈硬化、神経変性疾患など)を防ぐ効果を発揮します。組織の酸化障害を軽減する効果は炎症を抑える効果になるため、メラトニンは抗炎症作用を持つと言えます。
活性酸素などのフリーラジカルによる遺伝子の酸化障害は細胞のがん化の原因として重要です。また、抗がん剤や放射線治療による副作用の原因もフリーラジカルによる正常組織のダメージです。がんの発生や再発の予防、治療による副作用軽減においてメラトニンが有効である理由として抗酸化作用の関与が大きいと考えられています

●メラトニンはがん細胞を排除する免疫力を高める

Tリンパ球や単球の表面にメラトニン受容体があり、メラトニンはこの受容体を介してリンパ球や単球を刺激して、インターフェロンγ(IFN-γ)やインターロイキン(IL)1,2,6,12などの免疫反応を増強するサイトカイの分泌を促進する作用があります。
IL-2の産生によってナチュラルキラー細胞が活性化されます。ナチュラルキラー細胞ががん細胞を攻撃して排除する働きがあります。
メラトニンはリンパ球内のグルタチオンの産生を増やしてリンパ球の働きを高める効果が報告されています。
メラトニンは免疫細胞を活性化するだけでなく、抗がん剤によるダメージからリンパ球や単球を保護する効果もあります。この効果はメラトニンの抗酸化作用が関与しています。
ストレスによる免疫力の低下を抑え、感染症に対する抵抗力を高める効果が、動物実験で示されています。
臨床試験では、肺がんや大腸がんなどで、インターロイキン-2による免疫療法と併用して、抗腫瘍効果の増強が確認されています
以上ように、多くの研究から、メラトニンはがん細胞を排除する免疫力を高め、抗がん剤やストレスによる免疫力低下を軽減する効果があることが確かめられています。
ただし、自己免疫疾患(慢性関節リュウマチなど)やリンパ球の腫瘍(悪性リンパ腫やリンパ性白血病など)の場合は、メラトニン投与により病気が悪化する可能性がありますので、これらの疾患の場合には使用は危険です

●メラトニンはがん細胞の増殖を抑える

メラトニンは免疫力や抗酸化力を高めてがんに対する抵抗力を増強するだけでなく、がん細胞自体に働きかけて増殖を抑える効果も報告されています。
メラトニンには、腫瘍血管の新生やがん細胞の増殖、転移を阻害する作用が報告されています。例えば、がん細胞による成長因子の取り込みを阻害する作用、テロメラーゼ活性を阻害してがん細胞のアポトーシスを誘導する作用、血管新生作用をもつエンドテリンの合成を阻害する作用、がん抑制因子のP53の発現を制御する効果などが報告されています。つまり、直接的にがん細胞の増殖を抑える作用がメラトニンにはあるのです。
メラトニンは培養細胞を使った研究で、乳がん細胞のp53蛋白(がん抑制遺伝子の一種)の発現量を増やし、がん細胞の増殖を抑制することが報告されています。また、エストロゲン依存性のMCF-7乳がん細胞を使った実験で、エストロゲンとエストロゲン受容体の複合物が核内のDNAのエストロゲン応答部位に結合するところをメラトニンが阻害することによって、エストロゲン依存性の乳がん細胞の増殖を抑えることが報告されています。
動物実験では、乳がん、前立腺がん、悪性黒色腫、白血病などで、がんの増殖を抑える効果が示されています。
これらの作用によって、抗がん剤やホルモン療法の効き目を高める効果が、多くのがんで示されています。

●メラトニンの服用法

睡眠障害や時差ぼけには1〜3mg程度で十分です。抗老化作用やがんに対する効果を期待するのであれば、多め(1日5〜20mg程度)に服用します。
メラトニンを服用すると眠くなるため、日中の服用は避け、夜間に服用します。精神安定剤や通常の睡眠薬を飲んでいる場合には医師に相談することが必要で、妊婦、授乳中の女性は摂取できません。自己免疫疾患(慢性関節リュウマチなど)や悪性リンパ腫や白血病など免疫細胞の腫瘍の場合は、メラトニンの服用は病気を悪化させる可能性があるため使用できません
血液凝固を抑える作用があるため、血液凝固に異常がある場合や、ワーファリンのような血液凝固を阻害する薬を服用中は注意が必要です(主治医に相談して下さい)。
血圧を低下させる作用があるため、降圧剤を服用中は注意して服用して下さい。
メラトニンを多量に取ると、避妊効果があると言われていますので、妊娠を望んでいる女性は、メラトニンの使用は控えた方が良いでしょう。また、子供は充分な量が分泌されているので、サプリメントは接取させないようにしてください。

メラトニンは日本ではサプリメントとして許可されていません。銀座東京クリニックでは処方薬として10 mg 60カプセル入りを5000円(税込)、あるいは20mg 60カプセル入りを10000円で処方しています。処方希望の方は、info@1ginzaclinic.com へご連絡下さい。

(日本で認可されていない医薬品でも、医師であれば、厚生労働省から薬監証明を取得することによって合法的に輸入し、日本国内で処方薬として治療に使えます。メラトニンは欧米ではサプリメントの扱いですが、日本では食品とは認めていませんので、医薬品と同じ扱いになります)

 
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