サプリメントの使い方・選び方:悪性腫瘍       

薬局 vol.55, No.5 (2004年)
福田 一典 (銀座東京クリニック)

はじめに:

悪性腫瘍患者の多くが機能性食品やサプリメントを利用している実態が明らかになっているが、科学的根拠を優先する学術論文の多くは、臨床試験でのデータが乏しい(あるいはコンセンサスが得られていない)ことを理由に、これらの使用を推奨しておらず、むしろその有害性を懸念する意見の方が多い1,2,3 )
 しかし、癌患者の多くが、栄養素の不足、体力や免疫機能や抗酸化能の低下、血液循環や消化吸収機能の障害など多くの問題を抱えており、これらの問題を減らすことが、癌治療の効果を高め、再発予防や2次癌の発生予防に有用であることは常識的に納得できる。
 有害作用が現時点で報告されておらず、理論的にも有害作用をきたす可能性が低く、かつ有用性が期待できる場合には、サプリメントを適切に活用することは悪性腫瘍の治療の一助になりうる。悪性腫瘍患者に対するサプリメントの使用においては、その有効性と有害性の両方の観点からエビデンスに基づいた情報を提供することが求められている。
【注:悪性腫瘍は癌(上皮性腫瘍)と肉腫(非上皮性腫瘍)を包括する用語であるが、「抗癌剤」や「癌予防」のように慣用的に「癌」が「悪性腫瘍」と同意義で使用されているので、本論文でも両者を区別しないで慣用的に使用する】

1。癌予防におけるサプリメントの位置付け:

癌予防の手段は、一次予防、二次予防、三次予防、化学予防の4つに大別される。一次予防はライフスタイル(喫煙や運動など)や食生活の改善、環境中や職業性の発癌物質の規制などにより発癌リスクを低下させ、癌に罹らないようにすることを目標としている。既に発生した癌の早期発見・早期治療により癌死からまぬがれることを目的とするのが二次予防であり、癌の転移予防や治療後の再発予防などを三次予防という。発癌リスクの高い集団を対象にして癌予防物質を投与して癌の発生や進展を抑制する方法が化学予防である。このような癌予防の手段の中で、サプリメントは一次予防と三次予防と化学予防において使用される機会が多い。
 癌予防のための食生活は、野菜や果物、豆類、など植物性食品が豊富な食事を行い、動物性脂肪や赤身の肉の取りすぎに注意する、というのがコンセンサスになる。このような食生活を守ればサプリメントの摂取は不要で意味がないという意見が多い。
 しかし、生体の免疫機能や抗酸化機能が癌顕在化の抑制に作用していることは多くの研究で示されており、免疫機能も体内の酸化防止の能力も20歳台をピークにして年齢とともに徐々に衰えていくという事実から、抗酸化性物質や免疫賦活作用を有する機能性食品などを積極的に摂取することは、癌の発生予防や再発予防に有益と考える研究者は多い。
 癌予防においては、活性酸素や発癌物質の害を軽減するもの(抗酸化物質やフェースII解毒酵素誘導物質など)、免疫機能を活性化・増強するもの(βグルカンなどの多糖体など)、あるいは癌予防の食生活で推奨されているω3不飽和脂肪酸を含む魚油、大豆イソフラボン、食物繊維、茶カテキン、乳酸菌などを製品化したものが利用されている。

2。癌治療におけるサプリメントの位置付け:

癌の標準的治療(手術・抗癌剤・放射線治療)は正常組織の障害や体力や抵抗力の低下を招く欠点がある。手術侵襲によって体力消耗や生体防御能の低下が起こり、消化器系の切除手術では、術後に消化吸収能の障害が残って栄養状態の低下が起こる。抗癌剤や放射線治療は、ともにフリーラジカルを発生し、正常組織の障害も引き起こし、DNA変異を引き起こすため発癌性があり、その結果、抗癌剤や放射線治療の晩期後遺症(副作用)として2次癌の発生も問題になる。体力や免疫機能の低下は癌の再発や転移のリスクを高め、感染症を引き起こす原因にもなる。
 このような癌の標準的治療の欠点を補う目的で機能性食品やサプリメントの有用性が支持されている。癌の侵襲的治療による体力や免疫機能の低下を改善するために、栄養素の補充や滋養強壮・免疫増強・抗酸化などの作用を有するサプリメントの使用は理論的には有用であると考えられる。しかし、癌の種類や治療の状況によっては、これらのサプリメントが治療の妨げになったり、癌の増殖を促進する可能性を懸念する意見もある。
 抗癌剤や放射線の抗腫瘍効果はフリーラジカルによる殺細胞作用を利用するため、抗酸化物質やフリーラジカル消去物質がこれらの治療効果を妨げる可能性があり、抗癌剤や放射線による治療を行っている時には抗酸化作用やフリーラジカル消去作用のあるサプリメントは有害であり、推奨されないという意見がある 1,2,4) 。逆に、抗酸化性のサプリメントが抗癌剤や放射線治療の副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高めるという意見も多い5,6)
 その他、フィトエストロゲン(大豆イソフラボンなど)による乳癌細胞増殖促進、βカロテンの発癌促進作用、ニンニクやサメ脂質やイチョウ葉エキスによる血液凝固能の低下、薬物代謝酵素P450やP糖蛋白を誘導する作用のあるハーブによる抗癌剤治療効果の減弱、血管新生阻害作用を有するサプリメントによる潜在的副作用(胎児奇形や創傷治癒の遅延など)の可能性など、癌治療におけるサプリメントの使用には注意が必要な項目も多い 1,2,3) 。癌の種類や治療の状況によってその臨床的意義の異なるサプリメントもあることを理解しておく必要がある(表1)。

3。抗酸化性ビタミン:

 ビタミンC・EやコエンザイムQ10といった抗酸化性ビタミンが癌の発生予防や再発予防に有用であるとする報告は多い。癌治療中も、これらの抗酸化性ビタミンを含むマルチビタミン製剤の使用は、不足する栄養素の補充という観点から推奨する意見も多い。抗癌剤治療中に抗酸化性のサプリメントを併用することは、抗癌剤の抗腫瘍効果を高め、副作用を軽減する効果があると、メリットを強調する見解もある 5,6)
 しかし、抗癌剤治療や放射線療法は、どちらもフリーラジカルの細胞障害作用を利用するのであるから、フリーラジカルを消去するような抗酸化性のサプリメントを過剰に摂取することは推奨されないという見解が、癌専門医の間では主流である 1,2,4,7) 。抗癌剤や放射線治療中の抗酸化剤の使用に関する議論は、賛否両論それぞれがエビデンスを蓄積して主張しているため、現時点では結論は出せない 4) 。これが、癌治療中のサプリメントや漢方薬の併用をめぐる議論の混乱の原因となっている。
 癌治療後は、再発予防や2次癌の発生予防の目的で、抗酸化性ビタミンの使用は推奨する意見が多いが、この点も結論は出ていない。例えば、乳癌治療後にビタミンCやEなどの抗酸化剤を摂取することによって再発のリスクの減少を認めた研究があるが 8) 、一方、同じ乳癌で逆にマルチビタミンを摂取したグループの方が再発リスクが高まる結果も報告されている 9)
 癌の予防や治療におけるβカロテンの有害性についてはコンセンサスが得られている。βカロテンは抗酸化作用を有し、1980年代までは癌予防効果が期待されていたが、1990年代に実施された多くの大規模臨床試験の結果、喫煙している場合には、逆に肺発癌を促進し、肺癌による死亡者数を増加させることが明らかになった。その他、飲酒や喫煙をしている人では、βカロテンの摂取は発癌過程を促進する結果が数多く報告されている。
 酸素分圧の高い組織ではβカロテンが抗酸化剤ではなく酸化剤として作用する可能性や、cytochrome P450を誘導することによって発癌物質の活性化促進や酸化ストレス亢進の原因となって発癌促進剤(co-carcinogen)となる可能性が指摘されている 10) 。ビタミンCやEとの併用でその有害性が減弱される可能性はあるが、癌の予防や治療においてβカロテンのサプリメントの摂取は推奨されず、タバコやアルコールの摂取の多い人ではβカロテンは発癌促進作用に注意すべきである。カロテノイドを利用する場合には、αカロテンやリコペンなどを含むマルチ・カロテノイドを使用するのが安全である。

4。ポリフェノール類:

 植物に含まれる様々なフラボノイド(quercetin, genistein, resveratrol など)や茶カテキン(epigallocatechin gallate、など)の癌予防効果が報告されている 11)
 これらは構造式の中にOH基を複数含みポリフェノールと呼ばれ、その水素原子が電子供与体となるので、抗酸化作用を呈する。水溶性であることからビタミンCとならんで体液中での抗酸化作用に大きな役割を果たしており、抗酸化性ビタミンと相乗的に作用して抗酸化能を高める。抗酸化作用以外にも、癌細胞増殖抑制、血管新生阻害、転写因子活性化阻害、転移抑制、抗炎症作用など様々な抗癌作用が報告されているが、これらは基礎研究レベルであり、ヒト体内で抗酸化作用以外の作用がどの程度期待できるかは不明である。
 大豆に含まれるゲニステイン(genistein)、ブドウの皮に含まれるレスベラトロール(resveratrol)、茶のエピガロカテキンガレート(epigallocatechin gallate)など、動物実験などで抗腫瘍効果が報告されている成分を使った機能性食品が癌治療に利用されている。しかし、ヒトについての有効性は証明されていない。ゲニステインはヒトで達しうる濃度では癌細胞の増殖を促進する可能性も指摘されている 1,2)
 フラボノイドには血小板凝集阻害作用があり、血液凝固能に影響する可能性がある。フラボノイドを多く含むイチョウ葉エキス(Ginkgo Biloba)製剤の服用で出血の副作用が複数報告されている 1,2) 。抗癌剤治療などでで血小板数の減少のある場合や手術の場合には、フラボノイド類の過剰な摂取は注意が必要である 3)

5。フィトエストロゲン:

 植物にはエストロゲン様活性をもった成分が多く知られており、これらはフィトエストロゲン(植物エストロゲン)と呼ばれている。フィトエストロゲンの代表である大豆イソフラボン(ゲニステインなど)は、そのエストロゲン活性を利用して、更年期障害や骨粗鬆症などの治療に利用されている。また、大豆イソフラボンには前立腺癌や乳癌や胃癌など、多くの癌の発生予防や再発予防に有効である可能性が、動物実験や疫学的研究結果から指摘されている。しかし、乳癌に対しては2方向性の作用を示し、乳癌の発生に対しては抑制的に作用するが、乳癌が発生した後は、乳癌細胞の増殖に促進的に作用する点に注意が必要である 1,2,3,12)
 乳腺組織はエストロゲンの作用によって増殖が促進される。その乳腺組織から発生する乳癌の多くもエストロゲンによって増殖が促進され、抗エストロゲン作用をもった薬剤(タモキシフェンなど)が乳癌の治療後に使われる。したがって、エストロゲンによって増殖が促進される(エストロゲン依存性)乳癌の場合には、大豆イソフラボンのようなフィトエストロゲンの摂取は再発を促進する可能性が指摘されている。エストロゲン依存性乳癌に対するタモキシフェンの増殖抑制効果を、ゲニステインが阻害することが実験的に証明されている。
 抗エストロゲン剤を使ったホルモン療法を受けているときは、大豆イソフラボンやプロポリスのようなエストロゲン活性を持ったサプリメントは抗エストロゲン剤の作用を阻害するので摂取しないように指導されるのが一般的である。乳癌の他にエストロゲン依存性の子宮内膜癌や子宮筋腫でも、エストロゲン活性を目的としたサプリメントの摂取は避ける方が無難である 1,2,3)

6。ミネラル:

 癌予防と関連する代表的なミネラルとしてセレンや亜鉛などが知られている。その他のミネラルも不足すれば生体機能の低下を引き起こすので、不足する場合には補充することが癌の予防や治療に有用となる。。
 生体の抗酸化システムで重要な役割を果たすグルタチオン・ペルオキシダーゼは、その酵素活性部位にセレンをセレノメチオニンの形で含むため、セレンが欠乏するとグルタチオン・ペルオキシダーゼの活性が減少して体の抗酸化能が低下することになる。セレンに富んだ食事は多くの種類の発癌リスクを低下させる。一般的に低セレン血症は癌の危険因子として認識されており、発癌実験や移植腫瘍を用いた動物実験でも、セレンの抗腫瘍効果は数多く報告されている 13)
 亜鉛は多くの酵素の働きに必要で、免疫機能に大きな影響をもっている。亜鉛が不足すると免疫機能の低下により発癌のリスクが増大するという意見もあるが、亜鉛の豊富な食物を摂取している人では発癌リスクが高いことが報告されている。この理由として、亜鉛の血中濃度が高いときにはセレンの血中濃度は低いという両者の拮抗関係を示唆する考えがある。亜鉛の摂取量を増やすとセレンの吸収は低下することが知られている。実験的にも、亜鉛は濃度が高すぎても低すぎても癌の危険を増やすことがわかっている。食物繊維の多い食事は亜鉛の吸収を阻害するため、菜食主義者は亜鉛不足になりやすい。この事実は、癌の予防や治療の目的で高食物繊維食を実践する場合には注意すべき点である。
 食事摂取が不十分な癌患者ではミネラルの不足が抵抗力や回復力の低下の要因となっており、癌病態におけるミネラル補充の重要性はもっと認識されるべきである。しかし、上記のセレンと亜鉛の拮抗関係のように、量のバランスが非常に複雑で、癌の予防や治療の目的で限られた種類のミネラルを過剰に補充することは推奨されない。癌の代替治療でセレンの大量投与が行われる場合があるが、臨床効果の根拠は乏しく、過剰投与による副作用も問題もあるので推奨できない。食事からの摂取が不十分な場合には、それぞれのミネラルの推奨量の範囲で補充して、欠乏状態にならないようにすることが基本である。

7。ω3不飽和脂肪酸:

 脂肪酸はその種類によって癌細胞に対する影響が異なり、ω−6系不飽和脂肪酸は癌細胞の増殖を促進し、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのω−3系不飽和脂肪酸は癌細胞の増殖を抑制する効果が指摘されている。  
 DHAが癌の予防や治療の効果を高めることは、多くの臨床的研究や実験的研究で 明らかになっている。毎日魚を食べている人は、そうでない人に比べ大腸癌や乳癌や前立腺癌など欧米型の癌になりにくいという研究結果や、EPAやDHAによる前立腺癌のリスク低下などが報告されている。
 DHAが癌細胞の増殖速度を抑制し、腫瘍血管新生を阻害し、癌細胞に細胞死(アポトーシス)を引き起こすことなどが多くの癌細胞で示されている。抗癌剤の効果を増強し副作用を軽減する効果も報告されている。
 DHAなどのω3系不飽和脂肪酸は魚に豊富に含まれるが、魚の重金属汚染の問題や、高度不飽和脂肪酸は長期保存や加熱処理により酸化されやすという問題もあり、DHAをサプリメントで補給することの意義はある。ただし、 DHAやEPAは過剰に摂取すると、血液凝固能が低下して出血しやすくなる副作用があるので過剰摂取には注意が必要である。1日に1〜2gのDHAの摂取は癌予防や再発予防の目的で有用と考えられる。

8。抗腫瘍多糖:

 きのこ類の抗腫瘍作用の研究から、抗癌活性をもった多糖(抗腫瘍多糖)が発見され、その代表が(1→3)-β-D-グルカンや(1→6)-β-D-グルカンなどβグルカンと総称される多糖体である。類似の構造や免疫増強作用を有する多糖体や蛋白多糖体が、きのこ類や細菌などから多数みつかっており、Biological Response Modifire (BRM)として癌治療に利用されている 14)
 βグルカンなどの抗腫瘍多糖は、マクロファージ・T細胞・NK細胞などの免疫細胞を刺激し、サイトカイン産生や補体系を介して免疫増強にかかわる。動物実験では、経口投与でβグルカンが免疫増強作用を示し、βグルカンの分子量や構造がその活性に影響することが知られている。高分子量のβグルカンは消化管からは吸収しにくいので、腸粘膜に存在する小腸上皮間Tリンパ球などを介して腸管免疫を活性化し、全身の免疫機能を高める作用が示唆されている。
 免疫監視機構の活性化や増強作用が、癌の予防や治療に有用であることは、常識的に推察することはできる。癌が顕在化する要因として免疫監視機構の働きの低下は重要であり、癌が発生すること自体、免疫機能の低下を示唆する。したがって、癌の標準的治療による体力や免疫機能の低下を改善することは、癌の再発予防や延命につながると考えられ、さらに、高齢化社会で今後問題になってくる多重癌(癌が治癒したあとに別の臓器に新たに発生する癌)の発生予防にも効果が期待されている。
 臨床では、蛋白多糖体や細菌製剤など癌抗原非特異的な免疫療法剤が、一部の癌における術後補助療法として認可されている。健康食品としては、アガリクス(Agaricus blazei Murill)やメシマコブ(Phelinus linteus)などを材料にしたものが癌治療に多く使用されているが、その効果に関しては誇大広告まがいのものも多く、有効性に疑問を抱く臨床医は多い。βグルカンのような免疫賦活物質は、動物実験レベルでは抗腫瘍効果を証明する研究結果は多くでているが、それらを含む個々の健康食品については、臨床的に有効性を評価できるようなデータがあるものは少ない。
 βグルカンの副作用を指摘する報告は少ないが、非特異的な免疫賦活剤による過剰なサイトカイン産生刺激が癌病態の悪化につながる場合もある。マクロファージの活性化によって増加するTNF-αや活性酸素は癌に対する宿主の反応として作用するが、TNF-α産生や酸化ストレスの増大は癌の進展や悪液質の原因となって悪影響を及ぼすこともある。
 炎症によって産生されるプロスタグランジンや炎症性サイトカインは癌を悪化させることが証明されている。癌の増殖が早いときには、組織破壊などによって癌病巣では炎症が起こっているので、炎症を悪化させるような治療は逆効果になる場合もある。体の中に、自己免疫疾患や炎症性疾患があるときには、癌に対する免疫(Th1細胞)を活性化する治療で、これらの持病が悪化する場合がある。漢方では、炎症のあるときには、高麗人参のような滋養強壮や免疫を刺激する作用のあるものの使用に気をつけることが常識である。
 因果関係を証明することは困難であるが、免疫賦活作用を有する健康食品で、癌が悪化したと思われる体験談や、医師の経験談を耳にすることが多いのは事実である。免疫機能を高めることは癌治療にプラスになることは多いが、免疫機能を高めれば良いという単純なものでは無く、そのような作用が癌を悪化させるメカニズムもあることを知っておくべきである。免疫賦活作用を有する機能性食品が、リンパ球系の悪性腫瘍に対しても使用されていることに対する懸念も指摘されている 3) 。癌治療の場合に、ただ漫然と免疫を増強することだけを勧めるのは危険である。漢方の癌治療では免疫増強作用のある補剤を使用するときには、駆お血作用(血液浄化や血液循環改善作用)や清熱解毒作用(抗炎症作用やフリーラジカル消去作用)や抗癌活性をもった生薬を併用する方が良いことが経験的に知られている。

9。Ginseng(高麗人参、紅参、田七人参など):

 高麗人参(Panax ginseng)は漢方における補気薬の代表であり、滋養強壮の健康食品として癌患者に使用されることが多い。種々のストレスに対する体の抵抗力を高め、各種の癌によって引き起こされる食欲不振や体力減退、癌治療後の身体衰弱や生体防御能の低下の改善に有効で、癌の漢方治療においても頻用されている。高麗人参や紅参、その類縁の田七人参、アメリカ人参 (Panax quinquefolius L.) などを材料にした悪性腫瘍を対象にした健康食品も多く販売されている。
 これらの人参(Ginseng)類の代表的な薬効成分であるジンセノサイド(ginsenoside)には、癌細胞の増殖や転移を抑制する効果も報告されている。
 ヒトの疫学的調査で、高麗人参の癌予防効果が韓国から報告されている。高麗人参を長期間摂取している人は、癌になるリスクが用量依存的に低下することと、紅参が最も癌予防効果が高いことが報告されている 15)
 Ginseng(高麗人参やアメリカ人参など)の成分によるエストロゲン様作用が指摘され、乳癌治療後には使用を禁止する記述が昔からある。しかし、最近の研究では、Ginsengにはエストロゲンレセプターを介した刺激作用はなく、乳癌細胞に対してはむしろ逆に抑制的に作用することが多く報告されており、乳癌患者にGinsengを制限する根拠はない。
 ただし、細胞の代謝を賦活する作用が強く、血管拡張作用や免疫増強作用があるので、炎症性疾患や熱がある状態では病気を増悪させる場合もある。癌病態でも、癌細胞の増殖が強いときには、人参の蛋白合成亢進作用などが癌の悪化につながる可能性もあり、単独での過剰摂取は推奨できない。
 高血圧や肥満のある人は、人参を単独で大量に摂取すると、むくみや興奮・不眠・のぼせ・顔面紅潮などのほか、湿疹、血圧上昇などの有害作用が見られることがあるので注意が必要である。

10。その他の薬草や生薬由来製品:

 薬草やハーブや生薬と言われる植物由来の機能性食品が癌の予防や治療で使用されている。米国のデザイナーフーズ計画の結果では、ニンニクや生姜やターメリック(ウコン)の癌予防効果が高く評価されている。使用に際して注意が必要なものとして、ニンニクや生姜は刺激性があるため、過剰な摂取は胃腸障害の原因になることと、ニンニクと生姜は血小板凝集を抑制する作用があるため、出血の副作用が起こる危険性があることである。
 うつ症状の改善に利用されるセントジョーンズワート(St. Johnユs Wort)には、薬物代謝酵素のチトクロームp450や薬剤耐性に関与するP-糖蛋白の発現を増強して抗癌剤の作用を減弱させることが知られている。ハーブ系のサプリメントの中には同様の作用を有するものがある可能性もあるため、癌治療においてはハーブ類の使用を禁止する意見の方が多い 1,2,3)

11。サメ軟骨、サメ脂質(肝油):

腫瘍の栄養血管の新生を阻害すれば抗腫瘍効果が期待でき、血管新生阻害作用は癌治療における重要な戦略となっている。サプリメントでも、サメ軟骨やサメ脂質のように血管新生阻害作用を唱っているものもある。
 サメ軟骨やサメ脂質に含まれる成分に血管新生阻害作用を有するものがあり、薬剤として開発されている。しかし、健康食品として売られているものには、それらの活性成分が薬効を示すに十分な量含まれているわけでは無い。もし、腫瘍血管の新生を阻害するだけの血管新生阻害作用があれば、妊娠初期に服用すれば、胎盤形成に影響したり、四肢形成の初期段階で必要な血管新生が阻害され、胎児の発育に悪影響を及ぼすはずである。さらに、手術を受けるときには創傷治癒を妨げ、狭心症や心筋梗塞のような虚血性心疾患をもっている人には、血管新生を阻害して虚血症状を悪化させる可能性もある 1)
 したがって、サメ軟骨やサメ脂質のこのような潜在的な副作用を懸念する警告もある。しかし、販売されている健康食品のレベルでは、問題にならないという意見もある。ただし、これらの健康食品を、癌治療において血管新生阻害作用を期待して使用するのであれば、妊娠中、手術前後、虚血性心疾患などの場合には使用は避けるように注意しなければ矛盾がある。また、サメ脂質は血液凝固を阻害する可能性があるので、注意が必要である。

おわりに:

 悪性腫瘍におけるサプリメントの使用に関しては賛否両論のそれぞれの立場でエビデンスを蓄積しており、引用文献を増やせば増やすほど、コンセンサスのない曖昧な記述が増えてくる。
 その理由の一つは、癌研究に領域においては、実験系によって全く逆の結果が出ることが多く、培養細胞を用いたin vitroの基礎実験では、ヒトの摂取で達しうる血中濃度とかけ離れた高濃度での実験結果が報告されていることも議論を混乱させている。たとえin vitroの実験系で癌細胞に対する作用が確認されても、そのサプリメントのbioavailabilityや体内での代謝を考えると、ヒトでの臨床試験で効果が確認されるまでは推奨されない、という考え方は正しい。
 様々な健康作用をもったサプリメントは、ここで記載したような幾つかの注意点を知った上で、推奨量の範囲で適切に使用することは癌の予防や治療にプラスになることは間違いない。一部の機能性食品にみられる誇大広告まがいの業者の説明を鵜のみにせず、エビデンスに基づいた正確な情報を患者に提供する姿勢が大切である。


文献

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表1


サプリメント
使用を注意すべき悪性腫瘍の種類または治療
         注 意 点
βカロテン 肺癌・前立腺癌、その他の癌 喫煙者では肺癌や前立腺癌の発生を促進する。薬物代謝酵素のCytochrome P450を誘導して発癌物質の活性化や酸化ストレスの増大の原因となる。喫煙や飲酒と相乗的に作用して発癌を促進する可能性が高い。
ビタミンC,E 放射線・抗癌剤治療中、手術 放射線や抗癌剤治療の効果を妨げる可能性を指摘する意見がある。
(ただし、副作用を軽減し抗腫瘍効果を増強するという意見もあり、現時点ではコンセンサスは得られていない)
血小板凝集を阻害して出血のリスクを高める可能性あり。
フラボノイド類
イチョウ葉エキス
手術・抗癌剤治療中 血小板凝集阻害などの抗凝固作用によって出血の副作用の報告がある。
大豆イソフラボン 乳癌・子宮内膜癌 エストロゲン作用によって、エストロゲン依存性腫瘍(乳癌、子宮内膜癌)の増殖や転移を促進する可能性がある。
亜鉛 癌予防 過剰摂取でセレンの吸収を阻害して発癌を促進する可能性がある。
ω3不飽和脂肪酸
(DHA, EPA)

手術・抗癌剤治療中 過剰摂取で血液凝固能の低下による出血の可能性がある。
免疫増強剤
(βグルカンなど)
悪性リンパ腫、
その他の悪性腫瘍
炎症の併発時

免疫細胞の賦活作用を有するサイトカインの産生を増強するので、リンパ球系の悪性腫瘍に悪影響を及ぼす可能性がある。炎症性サイトカインやプロスタグランジンや活性酸素の産生を促進して、炎症の増悪や、状況によっては癌細胞の増殖促進の原因となる場合もありうる。
高麗人参 炎症の併発 炎症性疾患を併発している場合には病気を悪化させる場合がある。単独での過剰摂取は、細胞賦活作用や蛋白合成増強作用により癌細胞の増殖に加担する場合もある高血圧や肥満の場合は過剰摂取で、むくみ・興奮・不眠・血圧上昇などの副作用を引き起こす。
ニンニク
ショウガ

手術・抗癌剤治療中 刺激性により、過剰摂取で胃腸障害を起こす。血小板凝集抑制による出血の副作用の報告あり。
サメ軟骨エキス
サメ脂質
手術 血管新生阻害作用のため、妊娠中、手術前後、虚血性心疾患の場合には使用しない方が無難。
セントジョーンズワート 抗癌剤治療中 Cytochrome P450やP-糖蛋白の発現を誘導して抗癌剤の効果を減弱する。
食物繊維 食事療法 過剰摂取で亜鉛などのミネラルの吸収を阻害する。