ステージ4の進行がんでも治る可能性はある 

Tさん(49歳女性)は倦怠感と食欲低下と3ヶ月間で約6kgの体重減少が起こったので、近くのクリニックを受診しました。CT検査の結果、肝臓の右葉に8cmくらいの大きさの腫瘍が見つかり、腫瘍マーカーのCEAとCA19-9が上昇していたので、消化器系のがんの転移が疑われました。
PET検査や下部消化管内視鏡検査の結果、上行結腸に全周性の大きながんが見つかりました。 肝臓転移が大きく肝静脈に近いので、手術で切除することは困難な状況でした。 そこで、肝臓の腫瘍をできるだけ小さくして、手術ができる状態にすることを目標に抗がん剤治療が開始されました。
抗がん剤はFOLFOX(フォリン酸+フルオロウラシル+オキサリプラチン))+ベバシズマブ(商品名:アバスチン)のレジメで行われました。 抗がん剤治療の副作用を軽減する目的で、漢方治療ミルクシスルの服用を開始しました。 さらに、抗がん剤の効き目を高める目的で、2-デオキシ-D-グルコース(2.0g/日)、メトホルミン(1000mg/日)、ジクロロ酢酸ナトリウム(0.7g/日)、ビタミンB1製剤のベンフォチアミン(150mg/日)、R体αリポ酸(66mg/日)、ビタミンD3(4000 IU/日)、炭酸水素ナトリウム(重曹:10g/日)、オメプラゾール(20mg/日)を併用しました。 FOLFOX+ベバシズマブが8クール終了した時点で、腫瘍マーカーのCEAは抗がん剤開始前の5620 ng/mlから142 ng/mlに、CA19-9は抗がん剤開始前の18500 U/mlから526 U/mlに、いずれも30分の1以下に減少しました。 その結果、腸管の半分くらいを塞いでいた大腸がんの原発巣は、1cm以下に縮小し、肝臓の転移巣も直径が3cmくらいに著明に縮小していました。 そこで、原発巣と肝臓の転移を切除する手術が行われました。
切除した原発部位と肝臓転移以外には目に見える転移はありませんでしたが、目に見えないレベルで転移が残存している可能性があります。そこで、内服の抗がん剤(UFT+ロイコボリン)が6ヶ月間投与されました。 術後化学療法の間も、がん細胞の抗がん剤感受性を高める目的で手術前に服用した薬とサプリメントは継続しました。
6ヶ月間の術後化学療法が終了したあとは、漢方治療ビタミンD3発酵小麦胚芽エキス(AveULTRA)を継続しています。術後の抗がん剤治療が終了後、3年が経過していますが再発は認めていません。

抗がん剤治療に限界があるのは、がん細胞が抗がん剤に抵抗性を持つからです。したがって、がん細胞の抗がん剤感受性を高める方法を併用すると、遠隔転移のあるステージ4の進行がんでも治る可能性を高めることができます。

Tさんの場合は、手術前の抗がん剤治療(FOLFOX+ベバシズマブ)が8クール終了した時点で、腫瘍マーカーは30分の1以下になりましたが、それ以上は下がる様子はなく、上がりそうな状況でした。つまり、抗がん剤耐性のがん細胞が生き残って増殖を開始することが予想されましたので、手術が行われました。
手術しなければ、抗がん剤耐性のがん細胞が増殖するので、余命は半年から1年くらいと推測されます。しかし、手術ができたおかげで、根治する可能性が出ています。
切除不能と判断される肝臓転移例でも、全身化学療法後に根治切除が可能になる症例が一定の割合で存在することが明らかになっています。また,抗がん剤治療の奏効率(腫瘍の縮小率)と切除率には密接な関連があることが報告されてます。つまり、抗がん剤治療によって腫瘍縮小率を高めれば、切除できる可能性を高めることができます
この患者さんで行ったような方法は、有効性と安全性のエビデンスはあります。 乳がんの手術前の抗がん剤治療に併用して、病理学的完全奏功(病理検査でがん細胞が見つからない状態)の結果を得た患者さんもいます。膵臓がんや肺がんのような抗がん剤が効きにくいがんの抗がん剤治療で、この方法を併用して顕著な縮小例も多数経験します。
進行がんの抗がん剤治療では、がん細胞の抗がん剤感受性を高めることが重要です

ステージ4の固形がんでも治ることはある

がんが早期であれば手術だけで根治できます。 がんが進行して他の臓器に転移したステージ4の場合は、通常は手術の適応はなく、抗がん剤治療が中心になります。
急性白血病や悪性リンパ腫は抗がん剤治療が良く効きますが、胃がんや肺がんや大腸がんなどがん細胞の塊を作る固形がんは、基本的には抗がん剤では全滅できません。 抗がん剤治療で縮小しても、ほぼ確実に一部のがん細胞は生き残り、再増殖します。
その理由は、抗がん剤は正常細胞に対しても毒性があるため、生体を死なせない量しか投与できないためです。生体が死なない投与量だと、がん細胞を全滅することはできないためです。 そのため、ステージ4の固形がんの抗がん剤治療は根治治療ではなく、延命治療しかできません。
しかし、転移巣が少ない場合は、転移巣を手術で切除すると根治する場合もあります。 通常、目に見える転移が1個か数個あれば、目に見えない転移は多数あるいは無数にあると考えるのが常識です。したがって、遠隔転移があるときは、手術は意味が無いと一般には考えられています。 しかし、目に見える転移を切除したあと免疫力を高めたり、適切な食事療法などで再発を防ぐこともできます。 最近は、ピンポイントで腫瘍を照射する放射線治療で転移を消滅させることもできます。
大腸がんの場合、肝臓や肺の転移が少数の場合は、原発と一緒に転移を切除して術後補助化学療法を行うと再発せずに治癒する症例はそれほど珍しくありません。
そこで、転移が大きかったり多数ある場合でも、術前に抗がん剤治療でできるだけ縮小させて原発と転移を手術で切除することが行われています。 昔は、遠隔転移があると、手術は意味が無いと考えられていたのですが、最近は縮小効果の高い抗がん剤治療やピンポイントの放射線治療が行われるようになって、がん組織をできるだけ縮小して、生き残った抗がん剤耐性のがん細胞は手術で切除して、体内のがん細胞の数を大きく減らせば、その後の抗がん剤治療や免疫療法や食事療法などで積極的にがん再発予防の治療を行えば、根治することも経験するようになりました。 この場合、手術前の抗がん剤治療の効き目を高める方法を併用すると、手術ができる可能性を高めることができます

「がん細胞の抗がん剤感受性を高める」方法が必要なわけ

急性白血病や悪性リンパ腫のような血液がんの場合は、抗がん剤治療で治る場合があります。血液がんに対する抗がん剤治療の成功をもとに、固形がんでも全身に転移して手術や放射線治療の適応にならない場合の治療法として抗がん剤治療が行われるようになりました。

しかし、血液がんほどの効果が認められないという現実に直面することになりました。その理由は、塊を作る固形がんは、急性白血病や悪性リンパ腫のような血液がんとは異なる様々な理由があって、抗がん剤が効きにくくなっているからです。

例えば、急性白血病や悪性リンパ腫は腫瘍細胞の性質が均一で、細胞分裂の頻度が高いので、副作用が耐えられるギリギリの高用量の抗がん剤を投与したり、骨髄移植を併用する高濃度の抗がん剤治療によって、がん幹細胞を含めて腫瘍細胞を全滅することができます。しかし、塊を作って血液循環が不十分な部位がある(抗がん剤が到達しにくい)固形がんの場合は、高用量の抗がん剤治療を行っても、がん幹細胞が生き残る可能性が高いといえます
また、がん組織自体が酸性化している固形がんや低酸素のがん組織には、抗がん剤が効きにくいという理由もあります。 
通常の抗がん剤治療は、副作用が耐えられる最大量を投与してがん細胞を短期間で死滅させる方法が基本になっています。抗がん剤に対する耐性が出てくる前に短期間にがん細胞を全滅させる方が良いと考えるからです。急性白血病や悪性リンパ腫ではこの方法が有効です。

しかし、固形がんの場合は、この方法は必ずしも有効ではありません。
精巣腫瘍や小細胞性肺がんのように抗がん剤治療が著効を示す固形がんもありますが、多くの固形がん(肺がんや膵臓がんや胃がんなど)に対しては、抗がん剤の効き目は限定的です。
 その理由は、前述のような短期決戦にもっていっても、血液がんと違って固形がんは抗がん剤が効きにくいからです。
 元来、抗がん剤治療は手術や放射線治療ができない急性白血病や悪性リンパ腫に対して開発された治療法で、それをそのまま固形がんに応用した点に無理があるのかもしれません。
しかし、なぜ効かないかという理由が判れば、それを解決すれば、抗がん剤治療が固形がんにも効くことになります。
つまり、「固形がんにおける抗がん剤感受性を高める」ことができれば、がん治療の問題点の多くが解決できることになります。


がん治療における問題の多くは、「固形がんに対する抗がん剤治療の有効性が低い」ことに起因していて、これを解決することが、がんの補完・代替医療の最大の目的になっています。
 「抗がん剤は効かない」と否定するより、「抗がん剤が効く方法を見つける」ことがより建設的だと思います。
したがって私は、抗がん剤治療の欠点や限界を指摘していますが、抗がん剤治療を否定するのでは無く、抗がん剤治療の欠点や限界を解決する方法を研究し実践しています。

Tさんに使用した「抗がん剤治療の効き目を高める方法」については以下のサイトで解説しています。

○ ステージ4の進行がんでも治る可能性はある ;2-デオキシ-D-グルコース+ジクロロ酢酸+メトホルミンの相乗効果

○ がんのアルカリ療法

○ ビタミンDの抗がん作用