治癒切除後の胃がんの再発を漢方治療で防ぐ 

Kさん(43歳、男性)は胃がんで胃の全摘出手術を受けました。がんは胃壁の筋肉層に達し、周囲のリンパ節にも転移が1個見つかりましたのでやや進行したがんです。肺や肝臓には肉眼的な転移は見つかりませんでしたので、手術によってがんを全て摘出されたと考えられましたが、目に見えないがんが残っている可能性があるので手術後に内服の抗がん剤が処方されました。
胃を全部取っているために十分に栄養を吸収できないためか、3ヶ月後の体重は手術前より10kgも減っていました。疲れやすく、免疫力の低下による再発を心配して漢方治療を希望して私の外来を受診しました。
Kさんは、軽度の貧血と低蛋白があり、栄養が十分に取られていない状態でした。そこで、腸の働きを助けて気の量を増す漢方薬である「補中益気湯」(構成生薬:人参・黄耆・白朮・当帰・柴胡・大棗・生姜・陳皮・升麻・甘草)をベースにして、血を補う補血薬芍薬・川芎・丹参、血の巡りを良くする駆お血薬紅花・莪朮、抗がん生薬の白花蛇舌草を加えた漢方薬から開始しました。
 漢方薬を服用し始めてから1ヶ月くらい経過すると、食欲が出て体力もついてきたと感想を述べていました。さらに抗がん生薬(三稜・半枝蓮など)を追加しながら、体調に応じて漢方薬を加減しながら漢方治療を続けています。術後4年目ですが、体重や体力は手術前以上に回復し、再発の徴候もなく経過しています。

Kさんの場合は、治癒切除ですが、既にがんが転移している可能性があるために、主治医から術後の抗がん剤治療を勧められ、抗がん剤を内服している、という事情があります。
胃を全部切り取っているために、栄養が悪い状態で、抗がん剤でさらに免疫力を落とすと、がんが再発しやすい状態になると考えられます。このような時には、積極的に漢方治療を併用することは、がんの再発予防に効果があります。

大豆製品の摂取量が多いとがん治療後の予後(生存期間)が良好であることも報告されています。例えば、877症例の胃がんの手術後の生存率と食生活の関連を検討した愛知がんセンターからの報告によると、豆腐を週に3回以上食べていると、再発などによるがん死の危険率が0.65に減ることが報告されています。ちなみに、生野菜を週3回以上摂取している場合の危険率は0.74に、喫煙していると2.53になることが報告されています。

このように、食事の内容だけでがんの予後(生存期間)を良くすることができるということは、その延長上の事を行えばさらにがん再発を予防できることになります。野菜や大豆というのは、抗酸化力や肝臓の解毒機能を高めたり、種々の抗腫瘍作用が報告されているのですが、漢方薬に使われる生薬も同様の作用でさらに強い効果を持っています。つまり、がん予防効果を持ったものをたくさん利用すればがんの再発や転移もさらに予防できることになります。

しかし、単に野菜や大豆を多くとるというだけでは十分ではありません。がんは全身病であり、がんが増殖しやすいような体内環境にあるときは、たとえがん組織を取り除いても、また再発していきます。Kさんのように体力や免疫力の低下があるときには、それを改善してやることががんの再発予防の基本になります。がん組織は氷山の一角であり、水面下にある治癒力低下の要因を取り除くことが大切です(図)。そのために、漢方薬や健康食品や一部の医薬品が役に立ちます。

図:がん組織は氷山の一角。たとえがん組織を除去しても、体の治癒力を低下させる要因や、がんの発生を促進させる要因が改善されない限り、再びがんが発生(再発)してくる。