進行肝臓がんに対するサリドマイドの有効性 

サリドマイドが有効な腫瘍には、多発性骨髄腫、カポジ肉腫、脳腫瘍、肝臓がん、腎臓がん、前立腺がん、などがあげられています。血管の豊富な腫瘍や肉腫系の腫瘍に効果があるようです。
ここでは、肝臓がんに対するサリドマイドの効果に関する論文を紹介します。

1)Hepatocellular carcinoma with intra-atrial tumor thrombi. A report of three cases responsive to thalidomide treatment and literature review.(心房内腫瘍塞栓を有する肝臓がん:サリドマイド治療が有効であった3例の症例報告と文献的考察)(Oncology. 67: 320- 326, 2004)
肝臓がんが進行すると下大静脈や心臓の右心房内に腫瘍塞栓を形成することが稀ではありません。このような進行した肝臓がんに対して、手術や動脈塞栓術や放射線治療などが行われることもありますが、肝硬変の合併、多臓器への転移の存在、全身状態の不良、などの理由により、実施できないことが多く、下大静脈や右心房内に腫瘍塞栓を形成した肝臓がんの予後は極めて悪いのが実情です。
この論文は台湾からの症例報告です。
台湾は肝臓がんが多く、それまでもサリドマイド治療の臨床データの結果がいくつか報告されています。この論文では、心房内腫瘍塞栓を形成した進行肝臓がん患者で、低用量(200-400 mg/日)のサリドマイド治療で腫瘍が著明に縮小した3例を報告しています。
2例は心房内腫瘍塞栓が判明したあと15ヶ月以上生存していました。もう1例はサリドマイド治療開始4週間でAFP値の低下と腫瘍の著明な縮小が認められました。

今までの多くの臨床的検討で、サリドマイド単独で肝臓がんが縮小する頻度は低いのですが、腫瘍を大きくしない(stable disease)という効果は40-50%の症例で認められています
腫瘍塞栓をきたした進行した肝臓がんであっても、サリドマイド単独で腫瘍の縮小や延命効果が得られる可能性があることをこの論文は示しています。

2)Salvage therapy for hepatocellular carcinoma withthalidomide.(肝臓がんに対するサリドマイド治療)(World J Gastroenterology, 10: 649-653, 2004 )
手術や抗癌剤治療で効果を認めなかった、あるいはこれらの治療の適応のない、進行した肝臓がん患者99例(男性81例、女性18例)に対して、サリドマイドを1日150 - 300 mgの投与を行っています。81%の患者は肝硬変を併発していました。
腫瘍の縮小は少数でしか見られませんでしたが、一部の症例では腫瘍の縮小や延命効果が認められました
副作用は、皮膚のかゆみ、発疹で20例が抗ヒスタミン剤で治療を受け、2例では湿疹が強くサリドマイドを中止しました。その他の副作用として神経炎、眠気、便秘がみられました。

【コメント】
肝臓がんに対するサリドマイドの治療効果を検証した臨床試験はいくつかあります。その結果をまとめると、腫瘍が縮小する率は10%以下ですが、3分の1以上の症例で腫瘍の増大が抑制される効果は得られるようです。一部ではかなり著明な効果が得られ、また腫瘍塞栓を有するような進行がんの場合でも効果が見られることがあり、副作用も重篤なものは無いので、治療法の無くなった肝臓がん患者さんに試してみる価値はありそうです。

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