前立腺がん手術後に生化学的再発(PSA上昇)を認めた場合の生存期間の予測 

ジョンズホプキンス大学(メリーランド州ボルティモア)泌尿器科のFreedland医師らは,前立腺がん手術後の再発による死亡と関連する 3 つの危険因子を同定し,高リスク患者を特定する方法をJAMA(2005; 294: 433-439)に発表しています。

前立腺がんの根治的手術を行っても、約35%の患者に10年以内にPSA(Prostate-Specific Antigen)が上昇します。PSAは前立腺がん細胞から分泌される前立腺がんに特有の腫瘍マーカーです。つまり手術後にPSAが上昇してくることは、体内に前立腺がん細胞が増殖していることを意味し、目で見えない大きさであっても、再発を意味します。しかし、PSA上昇だけの生化学的再発の場合は、まだ腫瘍の大きさが小さければ、生命の危険はありませんし、治療をせずに経過を観察するだけの待機療法が選択される場合もあります。

前立腺がんの根治手術後に、PSAの上昇を認めた時に、その後の経過(死亡のリスク)が予測できれば、治療の選択に有用です。つまり、進行が早いと予測される場合には、多少の副作用のデメリットがあってもがんを抑える治療(ホルモン療法や抗がん剤治療)が必要ですが、死亡のリスクが低い場合には、副作用のリスクをおかしてまで強い治療を受ける必要性は無いかもしれません。
この論文では、前立腺がんの根治手術後に生化学的再発(PSA上昇)を認めた379例について、その後の経過(PSAの変化と死亡の有無)を平均約10年間(1~20年間)追跡して、予後に関連する要因を解析しています。

再発後の前立腺がんによる死亡のリスクを決める上で重要な因子として以下の3つを挙げています。

1)PSAの血中濃度が2倍になる期間(月単位):前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAの数値が倍になる時間(doubling time)を3.0ヶ月未満、3.0-8.9ヶ月、9.0-14.9ヶ月、15.0ヶ月以上に分けて解析しています。Doubling timeが短いほど、増殖速度が早く、その後の予後が悪いことを意味しています。
2)グリソンスコア(Gleason score):手術時に摘出した前立腺がんの組織を病理学的に悪性の度合いを検討するときにグリソンスコアが使用されます。
がんの悪性度を、分化度の高いおとなしいがん(1)から、低分化度のたちの悪いがん(5)まで5段階に分け、がん組織の中で最も優勢な部分と次に優勢な部分とにそれぞれに点数を付けて合計した点数がグリソンスコアです。最も大人しいものはグリソンスコアは2に、最も悪性のものはグリソンスコアが10になります。
この論文では、7以下と8以上に分けて解析しています。グリソンスコアが7以下はまずまずおとなしいがんに相当し、8以上はかなり悪性のがんと言えます。
3)手術から生化学的再発(PSA再上昇)までの期間:3年以下と3年以上に分けて解析しています。当然、手術後PSA上昇までの期間が短いほど、予後は悪いと言えます。
論文では、これら3つの要因で分類して、5、10、15年後の生存率を表にして示してます(表は略)。
例えば,PSAが 2 倍になるまでの期間が 3 か月未満であった23例の平均生存年数は 6 年で,PSAが 2 倍になるまでの期間が 3 か月未満,術後の生化学的再発までの期間が 3 年以下,Gleasonスコアが 8 ~10であった15例の平均生存年数は 3 年でした。(このように3つの因子が悪い条件では、5年生存率は51%、10年生存率は1%、15年生存率は1%以下と推測されています)
しかし,PSAが 2 倍になるまでの期間が15か月以上,術後の生化学的再発までの期間が 3 年超であった82例の生存率は,5年後で100%、10年後で98%、15年後で94%と評価しています。
患者や医師が前立腺癌手術後の再発による死亡リスクを評価し,さらに治療が必要かどうかを判断するうえでこれらの表が役立つことが期待されています。

(出典)
JAMA. 2005 ;294(4):433-439.
Risk of prostate cancer-specific mortality following biochemical recurrence after radical prostatectomy.
Freedland SJ, Humphreys EB, Mangold LA, Eisenberger M, Dorey FJ, Walsh PC, Partin AW.
The James Buchanan Brady Urological Institute, The Johns Hopkins Medical Institutions, Baltimore, Md, USA.