COX-2阻害剤のセレブレックスは多発性骨髄腫に有効かもしれない

COX-2阻害剤のcelecoxib(商品名:セレブレックス、セレコックス)は様々ながんの予防や治療において効果があることが報告されています。
多発性骨髄腫に対するCOX-2阻害剤の効果についても研究が行われており、最近の報告では、
1)セレブレックスとサリドマイドを併用すると骨髄腫細胞の増殖を抑える効果が相乗的に高まる可能性や(文献1)、2)セレブレックスにはCOX-2阻害作用とは関係なく、骨髄腫細胞に対して直接的なアポトーシス誘導作用を有する可能性が指摘されています(文献2)。
これら2つの論文から、治療抵抗性の多発性骨髄腫に対して、サリドマイドとデキサメサゾンを併用する標準的なサリドマイド治療に、セレブレックスを併用するとさらに抗腫瘍効果を高めることができそうです

(文献1)
A multicenter phase II trial of thalidomide and celecoxib for patients with relapsed and refractory multiple myeloma.(再燃した治療抵抗性の多発性骨髄腫の患者に対するサリドマイドとcelecoxibの併用療法に関する多施設第2相試験)Clin Cancer Res. 2005 Aug 1;11(15):5504-14.
オーストラリアで実施されている臨床試験の結果の報告です。
COX-2阻害作用が骨髄腫細胞の増殖を抑え、サリドマイドと相乗的に作用する可能性が多くの基礎実験で示されています。そこでサリドマイド(最大800mg/日)とセレブレックス(800 mg/日)を併用した患者の臨床効果を、以前にサリドマイド単独で行った臨床試験の結果と比較しました。
66例(43-85歳)の多発性骨髄腫の患者が、中等量のサリドマイドの内服と同時に、セレブレックスを1日量400mgか800mgの投与を受けました。
最も多い副作用は浮腫(むくみ)と腎機能の低下でした。
治療に反応した率(response rate)は平均20ヶ月の治療で42%でした。
進行が止まった期間(progression-free survival)は6.8ヶ月で、生存期間は21.4ヶ月でした。
サリドマイドと一緒に、最初の8週間で40g以上のセレブレックスを服用できた患者は反応率は62%で、サリドマイド単独の30%より良い結果でした。
この論文では、サリドマイドと高用量のセレブレックスを併用することによって骨髄腫細胞の増殖を抑える効果が増強することを示しています。
ただし、8週間で40gという量は1日に800mgのセレブレックスの服用が必要なことを示しており、むくみや腎機能の低下などの副作用が問題といえます。

(文献2)
Multi-target inhibition of drug-resistant multiple myeloma cell lines by dimethyl-celecoxib (DMC), a non-COX-2-inhibitory analog of celecoxib.(COX-2阻害作用を無くしたcelecoxib誘導体のdimethyl-celecoxibによる抗がん剤抵抗性の骨髄腫細胞株に対する増殖抑制作用)Blood. 2005 Aug 25; [Epub ahead of print]

米国の南カリフォルニア大学からの報告です。
celecoxib(セレブレックス)にはCOX-2阻害作用以外に、COX-2阻害作用とは関係ない機序で癌細胞にアポトーシスを誘導する作用が報告されています。
この論文では、celecoxibのCOX-2阻害作用を欠如させた誘導体2,5-dimethyl-celecoxib (DMC) について骨髄腫細胞に対する抗腫瘍効果を検討しています。
DMCとcelecoxibには、多くの抗がん剤に抵抗性を獲得した骨髄腫細胞に対して増殖を抑え、様々な機序を介して骨髄腫細胞にアポトーシスを誘導する効果があることを示しています。

以上、2つの論文をまとめると、celecoxibはCOX-2阻害作用と、COX-2阻害とは関係ない機序の2つの効果で、骨髄腫細胞の増殖を抑え、アポトーシスを誘導する効果があると言えます。

celecoxibの最大の副作用である浮腫や腎機能低下はCOX-2阻害作用によるものであるため、COX-2阻害作用を欠如したcelecoxib誘導体の2,5-dimethyl-celecoxib(DMC) は、多発性骨髄腫の治療薬として期待が持てます。DMCが臨床で使用できるようになるまではcelecoxib(セレブレックス)をその副作用に注意しながら、1日400~800mg使用する価値はありそうです。