進行卵巣がんに対するサリドマイドの有効性と注意点
抗がん剤抵抗性になった進行卵巣がんの治療にサリドマイドを有効性を示す臨床試験の結果が複数報告されています。進行卵巣がんの治療後の再発予防の目的で、サリドマイド治療の有効性が示唆されます。以下のような臨床試験の報告があります。
Ovarian and papillary-serous peritoneal carcinoma: pilot study with thalidomide.(卵巣がんおよび乳頭漿液性がん性腹膜炎:サリドマイド治療の予備試験)J Clin Oncol. 20:1147-1149, 2002
抗がん剤抵抗性の卵巣がん患者10例に対して、サリドマイド(200~400mg/日)を投与した結果、3例において腫瘍マーカーのCA-125の低下を認めた。
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Safety and efficacy of thalidomide in recurrent epithelial ovarian and peritoneal carcinoma.(再発卵巣がんにおけるサリドマイドの安全性と有効性)Gynecol Oncol 103(3): 919-23, 2006
米国カリフォルニアのスタンフォード大学医学部の婦人科腫瘍部門からの報告です。
目的:サリドマイドは血管新生阻害作用を有し、いくつかの固形腫瘍にも抗腫瘍効果を示す。我々は、再発上皮性卵巣がんにおけるサリドマイドの副作用と有効性を検討する目的の第1相試験を行った。
結果:再発した上皮性卵巣がんで頻回の抗がん剤治療を受けた17例を対象に、サリドマイドを投与した。サリドマイドの投与量は1日100mgからスタートし、副作用が問題なければ、2週間おきに100mgづつ増量し、強い副作用が出なければ1日1200mgまで増量した。
平均投与量は1日200mgで、治療期間は2~48ヶ月であった。
グレード1または2の主な副作用は便秘(76%)、神経障害(71%)、倦怠感(65%)で、グレード3以上の副作用はほとんど認めなかった。3例(18%)で部分奏功を認め、6例(35%)は6ヶ月以上の症状安定を認めた。治療開始から1年経過した段階で、奏功した9例中6例は奏功した状態(2例が部分奏功、4例が病状安定)を維持していた。
増悪までの平均期間は10ヶ月であった。47%の患者はCA125が50~70%低下した。CA125は1ヶ月で62units/mlの割で低下した。
結論:今回の研究は、再発し抗がん剤抵抗性の上皮性卵巣がんに対してサリドマイドが有効で安全性も問題ないことが示唆された。さらに大規模な臨床試験を行う価値がある。
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Oral thalidomide as palliative chemotherapy in women with advanced ovarian cancer.(進行卵巣がん患者の緩和的抗がん剤治療としてのサリドマイド経口投与)J Palliat Med 10(1): 61-66, 2007
米国ケンタッキー州のルイビル(Louisville)大学のブラウンがんセンター(Brown Cancer Center)の婦人科腫瘍部門(Division of Gynecologic Oncology)からの報告。
目的:再発した進行卵巣がん患者に対する治療に関して、通常の点滴による抗がん剤治療とサリドマイド経口投与と無治療の場合で、無増悪生存期間と生活の質(QOL)の観点から前向き試験で比較検討した。
方法:再発した卵巣がんか、がん性腹膜炎の状態で見つかった卵巣がんで、すでに2種類以上のプロトコールの抗がん剤治療を受けている進行卵巣がんの患者を対象にし、A)スタンダードな点滴の抗がん剤、B)サリドマイド(1日200mg)、C)治療の休止(無治療)の3グループに分けて比較した。CT検査および腫瘍マーカー(CA-125)で腫瘍の縮小や進展を評価し、QOL(生活の質)はFunctional Assessment of Cancer Therapy (FACT-O) questionnaireで評価した。
結果:40例の進行卵巣がん患者を対象にし、A群18例、B群18例、C群4例であった。
無増悪生存期間はA群が3.7ヶ月、B群が3.8ヶ月で差は認めなかった。
A群では部分奏功(PR)6.7%/病状安定(SD)60%、B群では部分奏功7.7%/病状安定53.8%であった。
サリドマイドを投与されたグループでは、53%の患者でCA125が50%以上低下したが、A群では50%以上CA125が低下した患者は13%であった。FACT-Oスコアで評価したQOLはA群とB群で差を認めなかった。
結論:通常の抗がん剤治療を頻回に受けた進行卵巣がん患者において、1日200mgのサリドマイド服用は、奏功率と生活の質(QOL)の観点から、通常の抗がん剤治療と匹敵する効果が期待できる。
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A prospective randomized trial of thalidomide with topotecan compared with topotecan alone in women with recurrent epithelial ovarian carcinoma.(再発した卵巣がん患者におけるトポテカン単独投与とトポテカン+サリドマイドの併用投与を比較した前向きランダム化試験)Cancer 112(2):331-9, 2008
米国ミネソタ大学の婦人科腫瘍部門(Division of Gynecologic Oncology)からの報告。
背景:サリドマイドは血管新生阻害作用と免疫調整作用を持っている。この研究は、再発卵巣がん患者に対するトポテシン単独とトポテシン+サリドマイド併用の場合の奏功率を比較する目的で実施した。
方法:この多施設の前向き(prospective)ランダム化第2相試験において再発卵巣がんの患者は、2001年4月から2005年7月の間に登録された。患者は以前に白金製剤をベースにした抗がん剤治療を受けていた。
トポテシン投与は21日サイクルで、最初の5日間(day1~day5)体表面積1m2当たり1.25mgのトポテシンを投与を受けた。サリドマイド併用群は、サリドマイドを1日200mgから開始し、副作用が耐えられる範囲で増量した。トポテシン単独群とトポテシン+サリドマイド併用群の2群間において副作用と奏功率を比較した。
結果:対象は69例(トポテシン単独群39例、サリドマイド併用群30例)であった。サリドマイドの投与量の平均は1日200mgであった。
奏功率はトポテシン単独群が21%(完全奏功18%+部分奏功3%)に対してサリドマイド併用群の奏功率は47%(完全奏功30%+部分奏功17%)であり、統計的に有意な差を認めた(P=0.03).
無増悪生存期間(progression-free survival)の平均は、トポテシン単独群が4ヶ月に対して、サリドマイド併用群は6ヶ月であった(P=0.02)。全生存期間の平均はトポテシン単独群が15ヶ月に対してサリドマイド併用群は19ヶ月であった。副作用の程度は両群のおいて差を認めなかった。
結論:この第2相試験において、再発卵巣がんのトポテシンによる治療において、サリドマイドの併用は奏功率を高める効果があることが示された。さらに大規模な第3相試験による検討が必要と思われる。
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以上のような臨床試験の結果から、再発した進行卵巣がんに対して、サリドマイド治療の有効性が示唆されています。
サリドマイドは副作用は比較的少ないのですが、進行卵巣がん患者にサリドマイド治療を行うと呼吸困難の副作用が起こりやすいという報告があります。
例えば、抗がん剤のトポテカンとサリドマイドを併用した治療を受けていた再発卵巣がんの患者さんに間質性肺炎が発症し、サリドマイドを中止したら間質性肺炎は治癒したという症例報告があります。トポテカンは継続しながら、サリドマイドだけを中止したら、間質性肺炎は治癒したという報告です。
サリドマイド単独では起こりにくい副作用が、抗がん剤との併用で起こりやすくなることがあります。抗がん剤と併用してサリドマイドを服用しているとき、呼吸困難や咳などの間質性肺炎の症状が出たときは、サリドマイドの副作用を疑ってサリドマイドを中止することが大切です。
出典:Thalidomide-induced reversible interstitial pneumonitis in a patient with recurrent ovarian cancer.(再発卵巣がん患者におけるサリドマイドにより誘発された可逆性の間質性肺炎)Gynecol Oncol 111(3):546-8, 2008
また、別の論文では、進行した卵巣がん患者にサリドマイドを投与すると呼吸困難(dyspnea)が起こりやすいことが報告されています。
この論文では、第2相臨床試験の一環として1日200mgのサリドマイド投与を受けた再発卵巣がん患者18例中8例(44%)に呼吸困難の副作用が認められたことが報告されています。
この内、1例は胸水を認め、1例は肺炎、2例はうっ血性心不全の所見を認めています。他の4例では呼吸困難の原因になるような異常な検査所見は認めていません。
呼吸困難を認めた5例においてはサリドマイドを中止すると症状は消失し、その後投与量を半分にして投与すると、呼吸困難は認められませんでした。
以上のことから、サリドマイド服用中に呼吸困難が出たときは、サリドマイドを一旦中止し、症状が消失してから、量を減らして投与するとサリドマイド治療を再開することができます。
出典:Dyspnea during thalidomide treatment for advanced ovarian cancer.(進行卵巣がん患者のサリドマイド治療中の呼吸困難)Ann Pharmacother 39(5): 962-5, 2005
再発進行卵巣がんの治療としてサリドマイド治療は有効ですが、通常の副作用(便秘、末梢神経障害など)に加えて、進行卵巣がん患者の場合は、呼吸困難や息切れや咳など呼吸器症状が新たに出現したときは、サリドマイドを中止し、症状が治まってから減量して投与する必要があるようです。このような注意を知って服用すれば、サリドマイドは進行卵巣がんの治療に役立つ可能性が高いようです。