ビタミンDは、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とD3(コレカルシフェロール)の総称です。ビタミンD2は植物に含まれるエルゴステロールから生成され、ビタミンD3は動物の体内でコレステロールから生成されます。ビタミンDはカルシウムの代謝を調節し、骨や歯の発育や維持に必要なビタミンです。
体内では7-デヒドロコレステロールから皮膚で紫外線によってビタミンD3に変換されます。体内で生成されたビタミンD3と食物から摂取したビタミンD2およびD3は肝臓で25位が水酸化されて25(OH)ビタミンDに変換され、さらに腎臓などで1α位が水酸化されて活性型の1,25(OH)2-ビタミンDになります。
近年、ビタミンDのがん予防効果が注目され、その作用メカニズムの研究や、ビタミンD摂取によるがん予防の臨床試験が行われています。
活性型の1,25(OH)ビタミンDは細胞の増殖や分化や死に関する複数の遺伝子の働きを調節する作用があり、がん細胞の増殖や転移を抑制し、アポトーシスという細胞死を誘導する作用が確かめられています。このようなビタミンDの抗がん作用が再発予防に関与していると推測されています。
多くの疫学的研究で、大腸がんや乳がん、前立腺がん、非ホジキンリンパ腫などでは、ビタミンD の血中濃度が高いほど、がんの発生率が低下することが報告されています。
さらに、肺がんや大腸がんでは、血中のビタミンDの濃度が高い人ほど、再発率が低く、長く生存することが報告されています。
例えば、304人の大腸がん患者を追跡した研究では、ビタミンDの血中濃度が高い上位25%の人は、血中濃度が低い下位25%の人に比べて、大腸がんによる死亡率が約半分であったと報告されています。(J Clin Oncol 26:2984-2991, 2008)
臨床試験で検討されたビタミンDのがん予防効果や抗がん作用については、研究によって結果が異なりますが、これは服用量との関連もあるようです。
ビタミンDのサプリメントを1日400IU(10μg)投与した臨床試験では、大腸がんや乳がんの発生率を下げる効果は認められませんでした。(N Engl J Med, 354: 684-696, 2006, J Natl Cancer Inst ,100:1581-1591,2008)しかしこの研究に対しては、サプリメントの投与を受けなかった対象群の人も食事から十分量のカルシウムやビタミンDを摂取しているので、ビタミンDの投与量である1日400IU(10μg)が少なすぎるという意見もあります。つまり、400IUのビタミンDは骨粗しょう症の予防には有効でも、がんの予防には足りないという意見です。
実際に、食事から平均で1日に7~8μgのビタミンDを摂取しているといわれていますので、10μgの補充では、十分な効果が得られないのかもしれません。
血中ビタミンD濃度と大腸がんの発生率に関する5つの疫学研究をメタ解析した報告によると、ビタミンDの大腸がん予防効果を副作用なく期待できる摂取量として、1日1000~2000IU(25~50μg)が推奨されています。(Am J Prev Med, 32: 210-216, 2007)
ビタミンD(1100IU/日)とカルシウム(1400~1500mg/日)をサプリメントで投与したランダム化二重盲験試験では、がんの発生自体を半分以下の減少させる効果が認められています。(J Clin Nutr. 85:1586-1591, 2007)
このような複数の研究結果を総合すると、1日1000~2000IU(25~50μg)のビタミンDの摂取であればがんの発生や再発予防に効果が期待できそうです。
ただし、成人の場合の摂取量の上限(過剰摂取による健康障害を起こすことのない最大摂取量)は50μg(2000IU)となっていますので、これ以上の摂取は推奨できません。ビタミンDを過剰に摂取すると、血清中のカルシウムとリン酸濃度が高くなり、腎臓などへのカルシウムの沈着や、吐き気や食欲不振や便秘などの副作用が起こることがあります。また、フィンランドで行われた研究では、喫煙者では、ビタミンDの血中濃度が高い上位25%は膵臓がんの発生率が3倍になるという報告がありますので、喫煙者はビタミンDのサプリメントは逆効果かもしれません。