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【ミルクシスルとは】
○ 学名はSilybum marianum というキク科の植物で、ミルクシスルの他、マリアアザミ、オオアザミ、オオヒレアザミなどと呼ばれます。和名はオオアザミです。原産は地中海沿岸で、ヨーロッパ全土、北アフリカ、アジアに分布しています。日本においても帰化植物として分布しています。
葉に白いまだら模様があるのが特徴で、この模様はミルクがこぼれたようにみえるためmilk thistle(thistleはアザミの意味)と言い、ミルクを聖母マリアに由来するものとしてマリアアザミの名があります。
その種子がヨーロッパにおいて古くから肝障害の治療薬として民間療法として利用されています。近年、ミルクシスルの肝細胞保護作用や肝機能改善作用の効果が科学的に証明されています。
肝機能障害のためのサプリメントとして利用されており、ドイツのコミッションE(ドイツの薬用植物の評価委員会)は、粗抽出物の消化不良に対する使用や、標準化製品の慢性肝炎や肝硬変への使用を承認しています。
○ミルクシスルの活性成分はシリマリン(silymarin)というフラボノリグナン(flavonolignan)の混合物です。シリマリンには、シリビニン(silibinin), シリジアニン(silydianin), イソシリビン(isosilybin), シリクリスチン(silychristin)などがあります。ミルクシスル種子は4〜6%のシリマリンを含有しています。
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シリビニンの構造。シリニビン(またはシリビン)は最も生物活性の高いシリマリンです。 |
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濃緑色の艶のある葉の縁は尖った波形で、葉脈に沿って白い縞模様があります。この模様がミルクがこぼれたように見えるため、ミルクを聖母マリアに由来するものとしてマリアアザミの名前がついています。
種子が薬用として利用されます。
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○ ヨーロッパでは2000年以上前から民間薬として肝機能障害などの治療に経験的に利用されています。1970年代から種子に含まれるシリマリンを中心に研究がすすめられ、ドイツでは肝炎や肝硬変の治療に30年も前から「レガロン」という名前で用いています。
○ 肝硬変、慢性肝炎、脂肪肝、アルコール性肝疾患、胆管炎や胆管周囲炎、胆汁うっ滞に効果があり、さらに胆汁の溶解度を高め、胆石を治す効果も報告されています。
○シリマリンは最も強力な肝臓保護物質の一つとして知られています。
ミルクシスルのもつ肝臓保護作用は、肝臓の蛋白質合成を刺激する作用とともに、肝障害の原因となるフリーラジカルやロイコトリエンやプロスタグランジンを抑制することに起因します。シリマリンにはビタミンEより強い抗酸化作用があります。
肝臓のグルタチオンの量を増やす効果も指摘されています。グルタチオンは肝臓の解毒能や抗酸化作用を高めます。
○抗がん剤による肝臓のダメージを軽減し、傷害を受けた肝細胞の再生を促進する作用が多くの臨床試験で確かめられており、血液浄化と解毒を促進するハーブとして利用されています。(後述)
○α-リポ酸とミルクシスルとセレニウムの組み合わせがウイルス性慢性肝炎に効果があるという報告があります
○ シリマリンは肝細胞の蛋白質合成能を高め、ダメージを受けた肝細胞の修復や再生を促進します。
○ミルクシスルは肝臓でのコレステロール産生を抑制するため、ミルクシスルの摂取によって胆汁中のコレステロールのレベルが低下することが報告されています。
家族性高脂血症の患者にミルクシスルを投与すると血中総コレステロールが低下し、善玉コレステロールのHDL-コレステロールが上昇することが報告されています。
○糖尿病患者に使用して、インスリン抵抗性を低下させ、血糖を下げ、糖尿病の合併症の腎臓障害や網膜症の予防効果が報告されています。シリマリンを服用することによって糖尿病患者の空腹時血糖が有意に低下することが複数の臨床試験で示されています。
【ミルクシスルの血液浄化と解毒作用について】
「血液浄化」や「解毒」という用語は、漢方医学やアーユルベーダ医学などの伝統医療や自然療法でよく使用されます。体に取り込まれた毒物を解毒し、体内にたまった老廃物の排泄を促進して、血液をきれいにする作用を意味します。
抗がん剤による治療中や治療後では、死滅したがん細胞や正常細胞によって死細胞や老廃物が蓄積します。また、抗がん剤が完全に代謝されて排泄されるまでは抗がん剤の毒作用がしばらく残ります。このような体内に増えた毒性物質や老廃物の分解と排泄を促進し、血液をきれいな状態にするために、「血液浄化(cleansing)」や「解毒(detoxification)」を促進する薬草治療の有用性が検討されています。
抗がん剤治療中および治療後の血液浄化と解毒作用に関して、ミルクシスル(milk thistle)というハーブの有効性が報告されています。毒物を解毒し血液を浄化する主な臓器は肝臓と腎臓ですが、ミルクシスルは肝臓の解毒機能を高めることが知られています。
ミルクシスルはヨーロッパでは古くから肝臓の治療薬として用いられ、抗がん剤治療によって受けたダメージの回復や血液浄化にも有効であることが多くの臨床試験によって確認されています。抗がん剤による肝臓のダメージを軽減し、傷害を受けた肝細胞の再生を促進する作用も確かめられており、西洋医学でも血液浄化と解毒を促進するハーブとして利用されています。
【ミルクシスルによる抗がん剤治療中の肝臓傷害の予防効果】
アルコールや医薬品、トルエンやキシレンなどの化学薬品、毒キノコなど、多くの肝臓毒性物質による肝臓傷害に対して、ミルクシスルが肝臓保護作用を示すことは、動物実験のみならずヒトでの臨床試験でも確認されています。
例えば、死亡率30%に上る毒キノコであるタマゴテングタケ(Amanita phalloides)を摂取する前にミルクシスルの活性成分であるシリマリンを服用すると、100%の確率で中毒を防ぐことができ、毒キノコ服用後24時間後でも死亡を防ぐ効果があることが報告されています。
また、有毒なトルエンやキシレン蒸気に5〜20年間曝露された労働者の肝障害に対して、シリマリン投与によって有意な改善がみられることが報告されています。アルコール性肝障害に対しても、ミルクシスルおよびその活性成分のシリマリンは非常に高い改善効果が認められています。
動物実験では、四塩化炭素、ガラクトサミン、エタノールなど様々な有害な化学薬品による実験的肝障害の全てに対して、ミルクシスルは肝臓保護作用を示すことが確かめられています。
抗がん剤の多くは肝臓で代謝され、肝臓にダメージを与えます。このような抗がん剤治療による肝臓障害に対しても、ミルクシスルの有効性が報告されています。
肝障害を起こす抗がん剤としてdactinomycin, daunorubicin, docetaxel, gemcitabine, imatinib, 6-mercaptopurine, methotrexate, oaliplatinなどがあります。欧米では、これらの抗がん剤治療を受けている患者さんが、自分の判断あるいは医師の処方としてミルクシスルのサプリメントを摂取しています。欧米では、ミルクシスルの肝臓保護作用が良く知られており、サプリメントとして多くの商品が販売されています。肝障害を予防できると、抗がん剤治療を予定通り行うことができます。
肝機能障害を発症した急性リンパ性白血病の50人の子供を対象に、ミルクシスルのサプリメントの治療効果がランダム化二重盲検試験で検討されています。その試験結果によると、ミルクシスルの投与によって、肝機能が著明に改善することが明らかになっています。
ミルクシスルは肝臓保護作用の他にも、抗がん剤による腎臓や心臓のダメージを軽減する効果も報告されています。
【ミルクシスルの腎臓保護作用】
抗がん剤治療による腎臓毒性に対するミルクシスルの効果に関する臨床試験はまだ実施されていませんが、動物実験では、シスプラチン(cisplatin)やイフォスファマイド(ifosfamide)のような抗がん剤で引き起こされる腎臓障害に対してミルクシスルの成分が保護作用を示すことが報告されています。
放射線による腎臓のダメージにもミルクシスルは保護作用を示します。
【ミルクシスルの心臓保護作用】
ドキソルビシンの心臓毒性に対してミルクシスルが保護作用を示す可能性が報告されてます。
【全身麻酔による臓器障害の予防】
全身麻酔による副作用や合併症を予防するために、手術前にミルクシスルの服用を推奨する意見があります。シリマリン(420mg/日)の投与によって全身麻酔による肝障害が予防できることが臨床試験で示されています。
【ミルクシスルは抗がん剤や放射線治療の効き目を高める】
ラットを使った実験ではγ線照射の1時間前にシリマリンを投与すると脾臓や肝臓や骨髄のダメージが緩和することが報告されています。
脳転移の患者に放射線治療を行うときにω3不飽和脂肪酸とシリマリンを服用すると、副作用が軽減し生存期間が延びることが臨床試験で示されています。
培養細胞や動物実験では、ミルクシスルは抗がん剤の効き目を高める可能性も示唆されてます。
【直接的な抗腫瘍活性】
様々な動物発がん実験において、シリマリンががん予防効果を発揮することが報告されています。
切除不能の進行した肝臓がんが、1日450mgのシリマリンを服用してがんが自然退縮したという症例の報告があります。(Am J Gastroenterol. 90:1500-1503, 1995)
手術と放射線治療を行った前立腺がん患者において、シリマリン、大豆、リコピン、抗酸化剤の入ったサプリメントを服用することによって再発が有意に抑えられることが報告されています。(Eur Urol. 48: 922-930, 2005)
【服用量】
サプリメントとして商品化されているものは、70-80%のシリマリンを含有するように調整されており、臨床試験の多くはこのようなスタンダードな製品を用いています。
臨床試験では、シリマリンを1日に140mgを3回(420 mg/日)の用量で行われています。
ミルクシスル種子を熱湯で煎じて服用する方法は古くから使用されています。
煎じ薬の場合は、1日3〜9g程度の潰した種子を煎じ、これを1日数回に分けて服用します。
ミルクシスル種子は4〜6%のシリマリンを含有しますので、9gの種子にはシリマリンが360〜540mg含まれている計算になります。
【副作用および使用上の注意】
○ミルクシスルやその成分のシリマリンにはほとんど副作用が無いことが多くの臨床試験で示されています。副作用としては、便が軟らかくなることが稀にあるくらいです。胆汁の分泌が多くなって軟便や下痢の原因になるからです。
ドイツのCommissin Eによると、通常の量を摂取した場合にはミルクシスルによる副作用は報告されていません。米国ハーブ教会の分類では、適切に使用される場合、安全に摂取できるハーブに分類されています。
長期投与でも全く毒性は認められていません。
イリノテカンを投与中の大腸がん患者に1日200mgのミルクシスルを投与し、イリノテカンの代謝になんら悪影響を及ぼさなかったと報告しています。
今までの臨床研究から、1日5gまでのミルクシスルの摂取はほとんど副作用が現れないと言えます。
○ミルクシスルは肝細胞の再生を促進する作用があるため、肝細胞ががん化した肝細胞がんに対しては、ミルクシスルを使用しない方が良いという意見があります。しかし、肝臓がん細胞の増殖を促進する効果は無いという反対意見や、ミルクシスルの服用によって肝臓がんが縮小した症例もあります。
○高用量のシリビニンが乳がんの増殖を促進することを示した動物実験の結果が報告されていますので、投与するシリビニンの量や利用効率を高めることに対して疑問の声も上がっています。しかし、この動物実験で使用された用量は人間では達成できないほどの高用量であるので問題ないという反対意見もあります。
【漢方がん治療への応用】
ヨーロッパでは、肝臓障害に対してミルクシスル単独での治療が行われていますが、漢方薬でも肝臓障害に有効な生薬は幾つも知られています。このような肝障害に有効な生薬やハーブをうまく組み合わせれば、抗がん剤による肝臓のダメージをさらに緩和することができます。
抗がん剤治療中の血液浄化と解毒機能を高めるために、駆お血薬(赤芍、桃仁、牡丹皮、莪朮、三稜など)や清熱解毒薬(板藍根、半枝蓮、白花蛇舌草など)にミルクシスルを併用することは有効です。
銀座東京クリニックでは、抗がん剤や放射線治療の副作用を軽減するための漢方治療や、肝炎・肝硬変の漢方治療に、従来の生薬の組み合わせに加えてミルクシスルを利用しています。
参考文献:
Clinical applications of Silybum marianum in oncology. Integr Cancer Ther. 2007 Jun;6(2):158-65.
Review of clinical trials evaluating safety and efficacy of milk thistle (Silybum marianum [L.] Gaertn.). Integr Cancer Ther. 2007 Jun;6(2):146-57.
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