近年、ヒドロキシクロロキンががん治療で注目されています。
その理由は、ヒドロキシクロロキンは細胞内のタンパク質を分解するオートファジー(autophagy)を阻害する作用があるためです。
オートファジー阻害薬はがん治療薬として開発が行われていますが、ヒドロキシクロロキンは現時点でFDA(米国食品医薬品局)が承認している医薬品の中でオートファジ阻害作用が証明されている唯一の医薬品です。
オートファジー阻害作用は、がん細胞の細胞死を誘導し、抗がん剤感受性を高めます。
オートファジーは細胞内タンパクや小器官を二重の脂質膜で包み込み,これをリソソームに輸送し分解する一連のプロセスです(下図)。
オートファジーの仕組みを解明した大隅良典・東京工業大栄誉教授は2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
図:細胞質に隔離膜と呼ばれる扁平な小胞が現れ、異常なタンパク質や細胞内小器官を取り込む(@)。その後、膜は細胞質を取り込みながら伸長し(A)、先端どうしが融合して、オートファゴソームが形成される(B)。 オートファゴソーム内にはミトコンドリアなどの大きなオルガネラも含まれる。オートファゴソームがリソソームと融合すると(C)、内包物は分解される(D)。自己消化で得られたアミノ酸は栄養源として再利用される。 。
オートファジーは細胞内の異常タンパク質を分解してリサイクル(再利用)するシステムです。 抗がん剤などでダメージを受けた細胞内小器官や異常タンパク質を分解して細胞のストレス負荷(小胞体ストレス)し、同時に栄養枯渇した状態において、細胞内のタンパク質やエネルギーを産生するための物質を得るために分解した栄養素をリサイクルすることによって生存を維持します。
したがって、抗がん治療にオートファジー阻害剤を併用すると、小胞体ストレスの亢進と、栄養飢餓が亢進して細胞が死滅しやすくなって、抗がん剤の効き目を高めることができます。
図:リボソームで合成されたタンパク質は小胞体で折り畳みや翻訳語修飾を受けて正常な機能を持ったタンパク質になる(@)。抗がん剤治療は小胞体にダメージを与え(A)、小胞体ストレスを引き起こし(B)、小胞体内で折畳み不全の異常タンパク質が増える(C)。異常タンパク質はオートファゴソームに取り込まれ(D)、リソゾームと癒合してオートファジーのメカニズムで分解され、小胞体ストレスを軽減する(E)。ヒドロキシクロロキンはオートファジーの過程を阻害する(F)。したがって、抗がん剤治療とヒドロキシクロロキンを併用すると、小胞体ストレスが亢進し、小胞体内に異常タンパク質が凝集して蓄積し(G)、細胞機能が阻害されて細胞死が誘導される(H)。