スチルベン (stilbene) とは、芳香族の炭化水素の1種の有機化合物です。
スチルベノイド(Stilbenoid)はスチルベンのヒドロキシル化誘導体です。
スチルベノイドは、さまざまな植物種に見られる天然に存在するフェノール化合物のグループで、それらはスチルベンという共通の骨格構造を共有していますが、置換基の性質と位置が異なり、その構造の違いによって化合物としての性状や薬理作用が異なります。
前述のように、スチルベノイドは病原菌や寄生菌が侵入したときに植物細胞が合成する抗菌性物質(ファイトアレキシン)です。
図:スチルベンに水酸基(OH)やメトキシ基(CH3O-)の側鎖がついて様々な種類のスチルベノイドが合成される。
スチルベノイドは、心筋細胞や神経細胞の保護、抗糖尿病作用、脱メラニン色素作用、抗炎症作用、がん予防や抗がん作用に至るまで、さまざまな生物学的活性を発揮します。
レスベラトロールは、最も広く研究されているスチルベノイドです。
スチルベンは、フラボノイドと同様にフェニルプロパノイド経路を介して植物で合成されます。
レスベラトロールは水への溶解度が低く(<0.05 mg / mL)、消化管粘膜からの吸収率が極めて低いという欠点があります。体内で急速に代謝され、半減期が非常に短いため、経口した場合のバイオアベイラビリティ(生体利用率)が極めて低いという欠点があります。
一方、プテロスチルベンは80%程度のバイオアベイラビリティを示すことが報告されています。 プテロスチルベン構造に2つのメトキシ基が存在することで、プテロスチルベンはより親油性になり、したがってより生物学的に利用可能になります。
プテロスチルベンは、グルクロン酸抱合または硫酸化に利用できる遊離ヒドロキシル基が1つしかないため、代謝的にも安定しています。 実際、ヒト肝ミクロソームで行われた酵素動態グルクロン酸抱合アッセイは、レスベラトロールがプテロスチルベンと比較してグルクロン酸抱合によってより効率的に代謝されることが示されています。
つまり、プテロスチルベンはレスベラトロールより消化管からの吸収がよく、グルクロン酸抱合や硫酸抱合による不活性化を受けにくいので、生物学的利用能が高いことを意味します。 ステルベノイドは以下のような様々な薬効が報告されています。
1)神経細胞保護作用:脳におけるアミロイド班の減少、脳梗塞の抑制、神経組織における活性酸素種の産生抑制、コリンエステラーゼ活性の阻害
2)心筋細胞保護・心肥大改善:AMP活性化プロテインキナーゼの活性化、eNOSの発現亢進と活性化
3)動脈硬化の抑制:酸化ストレスと炎症(TNF-α、IL-1β)の抑制、血管内皮細胞におけるLDLの酸化阻止
4)糖尿病の改善:インスリン感受性の亢進、グルコース取込み亢進、活性酸素種の産生抑制、AMPK依存性ミトコンドリア新生の亢進
5)虚血・再還流障害の抑制:抗酸化酵素(SOD活性)の亢進、酸化ストレス軽減、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β)の産生抑制
6)血小板凝集抑制:シクロオキシゲナーゼ活性の阻害
7)がん治療とがん予防:種々のがん細胞株に対する増殖抑制、アポトーシス誘導、血管新生阻害
8)肥満の抑制:脂肪合成の抑制。脂肪分解促進、AMPKとサーチュインとPGC-1αの活性化
9)皮膚の美白:メラニン産生抑制、チロシナーゼ活性の阻害
(参考:Biological Activities of Stilbenoids. Int J Mol Sci. 2018 Mar; 19(3): 792. )