東京銀座クリニック
 
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血管新生阻害作用を有する漢方薬とサプリメントを用いた
がん再発予防(Angioprevention)

【血管新生を抑えれば再発や転移が防げる】 

酸素や栄養素が絶えず供給されなければ細胞は死滅します。毛細血管から酸素や栄養素が拡散して細胞に届く距離は数百μmと言われていますので、血管ができなければ、がん組織は1〜2mm以上の大きさには成長できません。また、血管がなければ他の場所に転移することもありません
がん細胞は増殖するために自らを養う血管を作ろうとします。すなわち、細胞が酸素不足になると、がん細胞自らが血管内皮細胞増殖因子(VEGF)という蛋白質を分泌して、近くの血管の内皮細胞の増殖を刺激します。さらに周囲の結合組織を分解する酵素を出して増殖した血管内皮細胞をがん組織の方へ導き、血管の内腔を形成する因子を使って新しい血管を作っているのです。このように新しい血管を作ることを血管新生(angiogenesis)と言います。
がんの発生や再発の予防に効果が報告されている物質の多くに、血管新生のプロセスを阻害する作用が指摘されています。前がん病変や微小がんの段階で血管新生のスイッチが入るのを阻止できれば、がんの発生や再発を予防できる可能性が指摘されています。このようながん予防法をアンジオ・プレベンション(angioprevention)と言います。「アンジオ(Angio)」は「血管」、「プレベンション(prevention)」は「予防」という意味ですので、直訳すると「血管予防」ということになりますが、正確には「血管新生阻害によるがん予防」という意味です。
Angiopreventionの根拠は、「血管ができなければ腫瘍は数mm以上に成長したり、他の部位に転移することはできない」という事実です。イタリアのAdriana Albini博士らによって提唱されています。


図:がん組織が成長するためには血管新生(血管が新たに作られること)が必要。血管新生(Angiogenesis)を抑えることができれば、がん組織の成長や転移を防ぐことができる。血管新生を抑制してがんの発生や再発を防ぐ概念をAngiopreventionという。生薬や薬草はAngiopreventionに役立つ成分の宝庫と言える。血管新生阻害作用を有する生薬やサプリメントを併用すると、安全で効率的な再発予防が期待できる。


【血管新生阻害剤は術後補助療法として有用】

手術で腫瘍を切除したあと、再発のリスクが高いときには、抗がん剤を使った補助化学療法が行なわれます。しかし、がん細胞を死滅させることを目的とする通常の抗がん剤治療では、正常細胞にもダメージが及ぶので、辛い副作用が避けられません。
一方、血管新生阻害をターゲットにした治療は、通常の抗がん剤治療と比べて副作用が少ないのが特徴です。血管新生阻害剤の副作用が少ない理由は、健常な成人においては、体の中で血管が新生する必要がないからです。
血管新生には正常(生理的)なものと病的なものがあります。生理的な血管新生は、妊娠初期(胎盤形成や胎児の発生過程)、創傷治癒過程(手術後やケガ)、虚血部位周囲での側副血行路の形成(心筋梗塞や閉塞性動脈硬化症など)で起こります。一方、病的な血管新生は、炎症部位(慢性関節リュウマチ、糖尿病性網膜症、乾癬など)とがん組織で起こっています。
したがって、血管新生阻害作用を有する薬は、妊娠初期や手術後や虚血性心疾患や閉塞性動脈硬化症など生理的血管新生が必要な場合には使用できませんが、このような状況でなければ、理論的には体の機能に対する影響は少ないということになります。
血管新生阻害作用を持つ医薬品が開発され、がん治療に使われています。例えば、ベバシズマブ(商品名アバスチン)はVEGF(血管内皮細胞増殖因子)に対するモノクローナル抗体で、VEGFの働きを阻害することによって血管新生を阻害します。抗がん剤治療と併用することによって、生存期間や奏功率などの抗腫瘍効果を高める効果が臨床試験で確かめられています。
サリドマイドはVEGFや腫瘍壊死因子アルファやインターロイキン-8の産生や活性を抑えることによって血管新生を阻害します。消炎鎮痛剤のシクロオキシゲナーゼ阻害剤は血管新生を刺激するプロスタグランジンの産生を抑える効果があります。
このような医薬品は、再発をくり返す場合など再発リスクが極めて高い場合には利用する価値はあるかもしれません。しかし、副作用や費用などの問題もあり、通常の再発予防の目的での使用は推奨できません。安全性と有効性のより高い血管新生阻害剤の開発が待たれます。
また、食品や薬草などの天然成分を使ったアンジオプレベンションの可能性も検討されています。がんの再発予防は長期間の治療が必要なため、副作用が少なく経口摂取できるものが望ましいからです。さらに、血管新生に関与する複数の因子を同時に阻害する方が効果が高まるからです。

【天然成分によるアンジオプレベンション】

野菜や果物や生薬やハーブなどから血管新生阻害作用を有する成分が多く見つかっています。それらの成分の作用機序は様々で、血管新生に関わる遺伝子発現やシグナル伝達や酵素活性などの働きを阻害する成分が数多く見つかっています。
例えば、ショウガ(生姜)に含まれるジンゲロールやショーガオールはシクロオキシゲナーゼの活性を阻害してプロスタグランジンの産生を抑えます。プロスタグランジンは炎症を引き起こし血管新生を促進する作用がありますので、ショウガは炎症に伴う血管新生を抑制する効果があります。_動物の発がん実験やがんを移植した実験において、ショウガのジンゲロールなどの成分はがんの増殖や転移を抑えることが報告されています。
ウコンに含まれるクルクミンや緑茶に含まれるエピガロカテキン・ガレート(EGCG)、野菜や果物に含まれるケルセチンなどのフラボノイド、ブドウの皮に含まれるレスベラトロールには、炎症を促進する転写因子のNF-κBやシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の働きを阻害して、炎症によって誘導される血管新生を抑える効果が報告されています。
ビタミンCやE、カロテノイドやフラボノイドなどの抗酸化作用をもった成分は、フリーラジカルを消去して細胞の酸化ストレスを軽減する結果、NF-κBの活性化を抑制して、血管新生を抑える効果が期待できます。 
炎症やがんの治療に使われている生薬からも血管新生阻害作用を有する成分が見つかっています。血管新生の過程そのものを抑えるものや、血管新生を促進する要因となる炎症を抑えるものなどが知られています。
例えば、シソ科コガネバナの根の黄ごん(オウゴン)は炎症性疾患の漢方治療に古くから使用されている生薬ですが、オウゴンに含まれるフラボノイド(バイカリン・バイカレイン・オーゴニンなど)には、がん細胞や炎症細胞におけるNF-κBの活性化を阻害する作用、抗酸化作用、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)活性阻害作用などが報告されています。これらの作用は炎症に伴う血管新生を阻害する効果になります。
手術後は、創傷治癒過程で産生される炎症性サイトカインや増殖因子などの作用によってがん組織の血管新生が促進される可能性が指摘されています。抗炎症作用や血管新生阻害作用を目標とした漢方治療を術後早期から行うことは再発予防に効果が期待できます。
食品や生薬など天然成分の血管新生阻害作用は西洋薬に比べると弱いのですが、副作用が少なく、血管新生過程の複数のターゲットに作用して効果を発揮する点が特徴です。
このような血管新生阻害作用をもった食品成分や生薬を組み合わせることによって、副作用が少なく効果的なAngiopreventionを実践することができます。

【Angiopreventionに有用な生薬およびサプリメント】

漢方薬に使われる生薬から血管新生阻害作用を有する成分が見つかっています。血管新生の過程そのものを抑えるものや、血管新生を促進する要因となる炎症を抑えるものなどが知られています。
以下のような生薬や、生薬由来の成分のサプリメントを組み合わせるとAngiopreventionの効果が高まると思います。

半枝蓮(ハンシレン)

半枝蓮(ハンシレン) (Scutellaria barbata)は中国各地や台湾、韓国などに分布するシソ科の植物です。アルカロイドやフラボノイドなどを含み、抗炎症・抗菌・止血・解熱などの効果があり、中国の民間療法として外傷・化膿性疾患・各種感染症などに使用されています。抗がん作用も経験的に知られており、がんの漢方治療でも使用する頻度が高い生薬です。
半枝蓮の抗腫瘍作用については、培養がん細胞や動物実験を使って多くの研究が報告されており、さらに最近は、人間での臨床試験も実施されるようになりました。米国では進行乳がん患者に対する半枝蓮の効果が検討され、有効性を示唆する結果が得られています。
半枝連ががん細胞を殺す作用機序として、がん細胞のエネルギー産生に必要な解糖系酵素を阻害する作用が報告されています。正常細胞ではエネルギー産生は主にミトコンドリアでの酸化的リン酸化によって行われますが、がん細胞では酸素を使わない解糖系という方法でエネルギーを産生しています。この解糖系で働く酵素を阻害することによって、正常細胞には影響せずにがん細胞だけを殺すことができると推測されています。(Breast Cancer Res Treat. 105:17-28, 2007)
さらに血管新生阻害作用についても報告されています。その機序として、半枝蓮の成分が、血管内皮細胞の遊走(migration)とがん細胞からのVEGF(血管内皮細胞増殖因子)の発現を阻害する作用が指摘されています。
(Ai Zheng 24:1459-63, 2005)

黄ごん(オウゴン)

黄ごん(オウゴン)はシソ科のコガネバナ(Scutellaria baicalensis)の周皮を除いた根で、漢方薬の代表的な清熱薬(解熱・抗炎症作用)の一つです。半枝蓮と同じScutellaria属の生薬で、漢方では呼吸器、消化器、泌尿器などの炎症や熱性疾患に幅広く使用されています。
黄ごんはフラボノイド類(バイカリン・バイカレイン・オーゴニンなど)を多く含みます。黄ごんに含まれるフラボノイドには、抗炎症作用・抗菌作用・抗ウイルス作用・抗アレルギー作用・プロスタグランジン生合成阻害作用・抗腫瘍作用・肝障害予防作用などの多彩な薬理作用が報告されています。
オウゴンのフラボノイドにはがん細胞や炎症細胞における転写因子のNF-κBを阻害する作用、抗酸化作用、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)活性阻害作用などが報告されています。 これらの作用は、炎症に伴う血管新生を阻害する効果になります。
バイカリン・バイカレイン・オーゴニンなどオウゴンに含まれるフラボノイドが血管内皮細胞に直接働きかけて血管の新生を阻害する作用も、培養細胞や動物を使った実験で示されています。
最近の報告に、オウゴンに含まれるオーゴノシド(Wogonoside)が、リポポリサッカライド(LPS)で誘導される血管新生を阻害することが培養細胞と動物を使った実験で示されています。
リポポリサッカライドはグラム陰性菌の細胞壁を構成するリン脂質と多糖類の高分子複合体で、炎症細胞を活性化し、炎症性の血管新生を誘導する働きがあります。
この論文では、LPSで引き起こされる血管新生をオーゴノシドが抑制することを報告しています。オーゴノシドはLPSで誘導される炎症細胞の活性化と血管内皮細胞の増殖や血管形成のシグナル伝達で働く酵素を阻害する作用が示されています。(Toxicology, 259:10-17, 2009)
オウゴンに含まれるフラボノイドは炎症を血管新生の両方に対して阻害作用を示すので、がんの治療や再発予防に効果が期待できます。

生姜(ショウガ)

がん予防の代表的食品と言われるショウガは、そのがん予防の機序として抗炎症作用が重要です。
ショウガに含まれるジンゲロールやショウガオールという物質は、アラキドン酸を代謝してプロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンを合成するシクロキシゲナーゼやリポキシゲナーゼという酵素を阻害する働きを持っています。特にプロスタグランジンは炎症を引き起こし、血管新生を促進する作用があります。つまり、ショウガはプロスタグランジンの産生を抑制することによって炎症を抑え、炎症に伴う血管新生を抑制する効果があります。
その抗炎症作用はインドメタシンのようなNSAIDに匹敵するといわれています。_このような抗炎症作用は、がん細胞の増殖を抑える抗プロモーター活性にもなります。動物の発がん実験やがんを移植した実験において、ショウガのジンゲロールなどの成分はがんの増殖や転移を抑えることが多く報告されています。

欝金(ウコン)

ウコン(Curcuma longa)はインドや東南アジアなど熱帯地方に生えているショウガ科の植物です。その乾燥粉末は「ターメリック」という香辛料であり、カレー粉の黄色い色素の元でもあるので馴染み深い食材です。黄色色素を利用してたくわんの着色剤やウコン染めの名で染料としても使われています。
昔から薬草としても使われており、利胆(胆汁の分泌促進)、芳香性健胃薬の他に止血や鎮痛を目的に漢方処方にも配合されます。肝臓の解毒機能を強化し、二日酔いの防止にも効果があります。最近では、胃腸病や高血圧などの幅広い効用も認められるようになりました。
ウコンの主成分であるクルクミンは胆汁分泌を促し、脂肪の消化吸収を助ける作用があり、肝臓の解毒作用を強化する働きがあります。強い抗酸化作用と同時に、NF-kBという転写因子の活性化を阻害することにより、炎症や発がんを促進する誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)やシクロオキシゲナーゼー2(COX-2)の合成を抑えてがんの発生を予防したり、がん細胞を死にやすくするなどの効果が最近の研究で明らかにされがん予防物質として注目を集めています
転写因子のNF-kBは、通常は細胞内でIkBという阻害蛋白と結合して不活性な状態で存在しています。マクロファージに炎症性のシグナルが来ると、IkB蛋白が分解してNF-kBはフリーになって細胞の核に移行します。核内においてiNOSやCOX-2などの遺伝子の調節領域に結合して、これらの蛋白質の合成を開始します。最近の研究で、クルクミンはIkBの分解を阻止してNF-kBの活性化を抑制することによって、マクロファージからのiNOSやCOX-2の合成を抑えることが明らかになっています。
また、がん細胞においては、活性酸素などによってNF-kBが活性化されると、増殖が促進され、アポトーシスという細胞死が起こりにくくなります。アポトーシスとは、細胞がある情報を受けて、自ら能動的に死んでいく「プログラムされた細胞死」のことをいいます。多くのがん細胞は、転写因子NF-kBが活性化されるとアポトーシスが起こりにくくなって増殖速度が早くなります。がん細胞で活性化されたNF-kBを阻害してやるとがん細胞が抗がん剤で死にやすくなり、クルクミンががん細胞のNF-kBの活性化を阻害してがん細胞のアポトーシスを引き起こすことが報告されています。
このように、クルクミンのNF-kB活性の阻害は、炎症細胞からの誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)やシクロオキシゲナーゼー2(COX-2)の合成を阻害し、がん細胞のアポトーシス感受性を高めて死にやすくすることにつながり、さらに抗酸化作用も加わってがん予防効果を発揮することになります。
このような作用は、炎症に伴う血管新生を抑制する効果となります。

アルテミシニン誘導体

青蒿(セイコウ)は強力な解熱作用があり、中国ではマラリアの治療に古くから使用されていました。青蒿はartemisia annuaという植物です。artemisiaとはヨモギのことで、青蒿はキク科ヨモギ属の植物です。英語ではsweet Annieやwormwoodと呼ばれ、和名はクソニンジンとかカワラニンジンと呼ばれています。_その解熱成分の アルテミシニン(artemisinin) とその誘導体(アルテスネイト、ジヒドロアルテミシニンなど)は マラリア の特効薬として薬品として開発されています。このアルテミシニン誘導体にはがん細胞を死滅させる効果や血管新生阻害作用が報告されています。
Artesunateには、抗がん剤に耐性になったがん細胞の抗がん剤感受性を高める効果があることが報告されています。抗がん剤治療にArtesunateを併用すると、抗がん剤の抗腫瘍効果を高める可能性が示唆されている。
日本で流通している生薬の青蒿(セイコウ)はartemisia annuaとは別の植物で、アルテミシンは含まれていないようです。アルテミシン製剤はサプリメントや医薬品(抗マラリア薬)として販売されています。青蒿を煎じて服用するよりアルテミシニン製剤を利用した方が良いと言えます。
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ジインドリルメタン

ブロッコリーやケールなどのアブラナ科の植物や野菜には抗がん作用のある成分が多く含まれていますが、その代表的な成分がGlucobrassicin(グルコブラシシン)です。
グルコブラシシンは加水分解してインドール-3-カルビノール(Indole-3-carbinol)になり、さらに胃の中の酸性の条件下では、インドール-3-カルビノールが2個重合したジインドリルメタン(3,3'-diindolylmethane, DIM)になります。ジインドリルメタンは消化管から容易に吸収され、体中の臓器や組織に移行することが知られています。
ジインドリルメタン(DIM)には乳がんや前立腺癌をはじめ、多くのがん細胞の増殖を抑え、細胞死(アポトーシス)を誘導する効果が報告されています。
転写因子のNF-κB活性を阻害することによって、がん細胞の抗がん剤感受性を高めることが乳がんや膵臓がんで示されています。
さらに、がん組織の血管新生を阻害する作用も報告されています。
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漢方薬やサプリメントの血管新生阻害作用は西洋薬に比べると弱いのですが、副作用が少なく、血管新生過程の複数のターゲットに作用して効果を発揮する点が特徴です
血管新生や炎症を抑える漢方薬が、手術や抗がん剤治療後の再発予防の目的で有用な理由は、Angiopreventionの考え方から理解できます。
再発を繰り返すような場合や、転移の可能性が高い場合には、シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤(celecoxib製剤のセレコックスやセレブレックス)やサリドマイドを併用すると、再発予防やがん休眠療法の効果が高まります。

 
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