セレン(またはセレニウム)は体に必須の微量元素の一つで、セレンの摂取不足はがんや心臓病病の発症リスクを高めることが知られています。
体の抗酸化力を高めるためには、抗酸化物質(ビタミンC,ビタミンE,ポリフェノール,アルファリポ酸,CoQ10など)を取り入れえるだけでなく、体に備わっている抗酸化酵素(活性酸素消去酵素)の働きを高めることも大切です。種々の微量元素が抗酸化酵素の活性に必須であり、その中でセレン(またはセレニウム)は過酸化水素を水と酸素に分解するグルタチオン・ペルオキシダーゼの活性に必要です。セレンを補充することは、体の抗酸化力を高め、老化やがん予防に効果があることが明らかになっています。
私たちの体は肺から取り入れた酸素を利用して、細胞のミトコンドリアでエネルギーであるATPを効率よく生産しています。しかし、その一方で、活性酸素が発生して、細胞のDNAや蛋白質や脂質を酸化するため、老化やがんの原因となります。
このような活性酸素の害を防ぐため、種々の抗酸化酵素や抗酸化性物質といった活性酸素を消去するための防御システムが体には備わっています(図)。
 |
図:活性酸素の生成と消去
活性酸素の生成と消去には種々の微量元素が関与している。セレン(Se)は過酸化酸素を分解するグルタチオン・ペルオキシダーゼの活性に必要 |
酸素(O2)がエネルギー産生や種々の酵素反応や炎症細胞の活動に使われると、電子が一個余分についたスーパーオキシド(O2−)が発生します。スーパーオキシドはスーパーオキシド・ディスムターゼ(SOD)という抗酸化酵素によって過酸化水素(H2O2)に変換され、さらにカタラーゼやグルタチオン・ペルオキシダーゼによって水と酸素に変わります。
過酸化水素が鉄や銅イオンなどと反応して生成されるヒドロキシ・ラジカル(・OH)は酸化力が極めて強いため、細胞の酸化障害の主要な原因となっています。したがって、過酸化水素を片っ端から水と酸素に変換してくれるグルタチオン・ペルオキシダーゼの働きを高めてやることは、体の酸化障害を予防する有効な手段となります。
グルタチオンは3つのアミノ酸(グルタミン酸、システイン、グリシン)から成る物質で、細胞内に大量に存在します。グルタチオンの中のシステインに含まれるSH基が電子供与体となり、フリーラジカルに電子を与えて安定化させる働きがあります。
細胞内には還元型グルタチオン(GSH)として存在し、電子を与えたあとは2量体(GSSG:酸化型グルタチオン)に変化して安定になるため、フリーラジカルによる電子の連続的な奪い合いを止めることができます。酸化型グルタチオン(GSSG)はグルタチオン・レダクターゼがNADPHからの電子をGSSGに転移してGSHに戻ります。
この還元型グルタチオンを電子供与体として過酸化水素を水と酸素に分解したり、脂質過酸化物を還元して無毒化するのがグルタチオン・ペルオキシダーゼです。
グルタチオン・ペルオキシダーゼはフリーラジカルや活性酸素に対する生体防御において重要な役割を担っています。この酵素はセレンをセレノシステイン(アミノ酸の一種のシステインに含まれるイオウ原子がセレニウムに置き換わっている)の形でその酵素活性部位に持っています。血漿中のグルタチオン・ペルオキシダーゼ量はセレン欠乏の指標として測定されています。つまり、セレンが欠乏するとグルタチオン・ペルオキシダーゼの量が減って体の抗酸化力が低下することになります。
セレンが必要な蛋白質はグルタチオン・ペルオキシダーゼ以外にも、チオレドキシン還元酵素(thioredoxin reductase)など25種類くらいあると言われていますので、セレニウムの欠乏は抗酸化力の減弱だけでなく、様々な細胞の働きに支障がでてきます。セレンが欠乏すると酸化ストレスにたいする抵抗力がなくなり、免疫力も低下して感染症にかかりやすくなります。セレンは精子の運動能を高める作用や心臓疾患や白内障を予防する効果も知られています。体の抗酸化力を高めて、脂質の過酸化を抑制することによって動脈硬化の進展を抑えます。