東京銀座クリニック
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アセチル-L-カルニチン(Acetyl-L-Carnitine)

【ヒスタミン H2 受容体拮抗薬のシメチジンの抗腫瘍効果について】

生体内アミンであるヒスタミンは、炎症反応や胃酸分泌、アレルギー反応など様々な生理反応に関与しています。ヒスタミンは細胞表面にある受容体に結合することによって細胞にヒスタミンの刺激を伝えます。
ヒスタミンの受容体は現在までに 3 種類のサブタイプ(H1〜H3)が見つかっていますが、そのうち H2 受容体は胃酸分泌において中心的な役割を担っており、その拮抗薬であるシメチジンやラニチジンなどは胃酸の分泌を抑える効果により胃炎や消化性潰瘍や逆流性食堂炎などの治療薬として使用されています。

1980 年代後半に デンマークのTonnesen らにより、シメチジンが胃がん患者に対し延命効果を示すことが報告され、その後、大腸がん、悪性黒色腫に対しても同様の効果を示すことが報告されています。
例えば、治癒切除術後5-FU(200mg/日)投与を受けている原発性大腸がん患者(シメチジン800mg/日併用群34例、非併用群30例の計64例)において、平均10.7年の観察期間での10年生存率は、シメチジン併用群で84.6%、シメチジン非併用群で49.8%でした(P<00001)。
たった7日間のシメチジン投与(手術前5日間と手術後2日間)で、大腸がん患者の3年後の死亡率を41%から7%に低下させたという報告もあります。
腎がんにおいても、進行例に対してインターフェロンα+シメチジンを併用した場合、インターフェロン単独よりも抗腫瘍効果が高いことが報告されています。
切除手術を受けた大腸がん患者を対象にした臨床試験のメタ解析によると、シメチジンを服用することによって死亡リスクが0.53に低下すると報告されています。

ヒスタミンにはがん細胞の増殖を促進する作用や、細胞性免疫を抑制するリンパ球(骨髄由来抑制細胞や制御性T細胞)を活性化することなどが報告されており、そのためシメチジンの延命効果は、がん細胞に対するヒスタミンの細胞増殖促進作用を阻害する機序や、がん細胞に対する免疫力を活性化させ る可能性などが指摘されています。さらに近年では、シメチジンが接着因子 E-セレクチンの発現を抑 制することによりがんの転移を抑制する抑える機序や、インターロイキン 12の発現上昇を介したナチュラルキラー細胞活性化血管新生阻害作用によって腫瘍組織の増大を阻止する可能性、がん細胞にアポトーシス(細胞死)を誘導する作用など、新たなメカニズムも報告されています。

しかしながら一方で、ラニチ ジンやファモチジンなど他のヒスタミン H2 受容体拮抗薬を用いた検討においては、それらがシメチ ジンと同等もしくはそれ以上に強力な薬理作用を有するにも関わらず、癌患者に対し同様の効果 が認められないという報告がなされています。すなわちシメチジンの有する延命効果や腫瘍増殖抑 制作用などは、その H2 受容体拮抗作用によるものではなくシメチジン特有のものである可能性も指摘されています。
以下のような報告があります。

【シメチジンの抗腫瘍効果のメカニズムについて】

シメチジンの抗腫瘍作用のメカニズムに関しては、様々な報告があり、まだ十分に解明されていません。以下のような可能性が指摘されています。

接着因子のE-セレクチンの発現抑制

がん細胞が原発巣で増殖し、局所浸潤、血管外脱出を経て血行性に転移巣を形成する過程において、がん細胞の表面に発現するシアリルルイスXシアリルルイスAなどの糖鎖抗原と標的臓器の血管内皮細胞に発現するE-セレクチンとの接着は、最初の重要なステップと考えられています。
シアリルルイスXやシアリルルイスAとE-セレクチンの接着によってがん細胞は血管内皮細胞上をローリングし始めますが、この現象がインテグリンとフィブロネクチンとの接着に代表される強固な接着の引き金になると考えられています。
したがって、シアリルルイスXやシアリルルイスAなどの糖鎖抗原とそのリガンド(結合する相手物質)であるE-セレクチンの接着を阻害すれば、転移を制御できる可能性があります。
シメチジンは血管内皮細胞におけるE-セレクチンの発現を阻害する作用が報告されています。したがって、シアリルルイスXやシアリルルイスAなどを発現するがん細胞に対しては転移を抑制する効果が期待できます。
ある研究によると、大腸がん細胞の約70%はシアリルイス抗原を高レベルで発現していることが報告されています。乳がんや膵臓がんでもシアリルスイス抗原を発現しています。
抗がん剤治療では血管内皮細胞のE-セレクチンの発現が亢進するので、抗がん剤治療中にシメチジンを併用すると転移の予防になるという報告があります。

血管新生阻害作用

血管新生を阻害すると腫瘍組織の増大を抑えることができます。
血管新生を刺激する血管内皮細胞増殖因子(vascular endothe-lial growth factor, VEGF)の発現や活性を抑える効果や、血管内皮細胞の管腔形成過程を阻止する効果などが報告されています。
ヒスタミンはIL-12の産生を抑制します。 IL-12 は血管新生を促進する 因子である血管内皮細胞増殖因子や塩基性線維芽細胞増殖因子の産生抑制にも 関わっていることが報告されています。ヒスタミン H2 受容体拮抗薬は IL-12 の発現上昇を 介した VEGF 産生の抑制によってもその抗腫瘍作用を発揮している可能性が示唆されています。

アポトーシス誘導作用

がん細胞に直接作用して細胞死(アポトーシス)を誘導する作用が報告されています。

抗腫瘍免疫(Th1)の増強

生体の免疫機構は細胞性免疫型(Th1)と体液性免疫型(Th2)のバランスにより制御されていますが、多くのがん患者や担がん状態の実験動物においてその免疫機構が Th2 型へ移行していることが報告されています。がん細胞の排除には細胞性免疫(Th1細胞)が中心的な役割を担うと考えられていることから、Th2 型への移行は担がん宿主の免疫機能低下の一因であると考えられています。
免疫機構が Th2 型に移行している担がんマウスに IL-12 を投与すると腫瘍の顕著な退縮が認められることが数多く報告されています。 IL-12 はナチュラルキラー細胞や T 細胞をその傷害活性の誘導・増強に向けて活性化するのみでな く、生体の細胞性免疫を促進する根源的な役割を担うサイトカインです。
IL-12 の主な産生細胞 はマクロファージおよび B 細胞であることが知られていますが、近年マクロファージからの IL-12 産生をヒスタミンが抑制すること、またその抑制作用はヒスタミン H2 受容体拮抗薬を前処置した際には認められないことが報告されています。多くのがん組織においてはヒスタミン含量の上昇や、ヒスタミン合成酵素であるヒスチジンデカルボキシラーゼ活性の上昇が確認されています。これらのことは、担がん状態における免疫機構の Th2 型への移行原因の一つに、上昇したヒスタミンに よるマクロファージからの IL-12 産生抑制が関与している可能性を示唆するものです。したがって、ヒスタミンH2受容体拮抗薬は、IL-12の産生を高め、細胞性免疫(Th1細胞)の活性を高める効果が期待できます。

樹状細胞の活性化

がん細胞に対する免疫応答の中でがん抗原に対する免疫応答誘導において鍵となる細胞である樹状細胞の抗原提示能を増強させる可能性が報告されています。

ナチュラルキラー細胞の活性化

インターロイキン12(IL-12)の発現を亢進してナチュラルキラー細胞活性を高める効果が報告されています。
前述のごとく、ヒスタミンはIL-12 の産生を抑制するので、シメチジンはIL-12の産生を高めてナチュラルキラー細胞活性を高める効果を発揮します。  

細胞傷害性Tリンパ球の活性化

ヒスタミンには細胞傷害性Tリンパ球の生成を抑制する作用が知られています。さらにヒスタミンH2受容体はサプレッサーT細胞にも発現が認められ、ヒスタミンによりサプレッサーT細胞が活性化され、宿主側の免疫システムを減弱させると報告されています。そこでヒスタミンH2受容体拮抗薬が上記のヒスタミンの作用を抑制し、免疫システムを増強し、抗腫瘍作用を示すのではないかと推測されています。
また、抗腫瘍免疫の働きを弱める骨髄由来抑制細胞や制御性T細胞の働きをヒスタミンが高めるので、抗腫瘍免疫が抑制されるという報告もあります。
シメチジン投与群では腫瘍組織にリンパ球の浸潤が多く見られたという報告があります。このような腫瘍組織に浸潤するリンパ球の存在は、腫瘍に対する宿主の免疫応答を意味しており、予後が良いことを示すサインと言えます。つまり、シメチジンはがん組織に対する免疫応答(細胞性免疫)を増強する効果があると言えます。
大腸がんはヒスタミンを分泌し、がん組織の中のヒスタミンのレベルが高いことが報告されています。つまり、がん患者や手術後の病態における免疫抑制には、ヒスタミンが関与している可能性があり、H2ブロッカーによって、免疫力低下の機序を解除できる可能性が指摘されています
しかし、ヒスタミンH2受容体を介してヒスタミンの免疫抑制作用を阻害するという作用機序はシメチジン以外のヒスタミンH2受容体拮抗薬が活性を持たないことから疑問視する意見もあります。

●シメチジンには血管新生阻害作用とアポトーシス誘導作用がある

【文献1】
Cimetidine inhibits angiogenesis and suppresses tumor growth.(シメチジンは血管新生を阻害して腫瘍の増殖を抑える)Biomed Pharmacother. 59(1-2):56-60. 2005
(要旨)
固形がんは大きくなるためには血管新生が必要。この研究では、腫瘍組織における血管新生とがん細胞の増殖に対するシメチジン(Cimetidine)の効果を検討した。
マウス( C57BL/6)の皮下にマウス大腸がん細胞(CMT93)を移植し、シメチジン投与群と生理食塩投与群(コントロール)に分けて、腫瘍の大きさと血管新生の度合いを比較した。
CMT93細胞を培養して検討した場合には、シメチジンは増殖を抑えなかったが、マウスに植え付けたCMT93細胞の増殖を著明に抑制した。血管新生を刺激する増殖因子であるVascular endothelial growth factor(VEGF)のがん細胞からの産生にはシメチジンは影響しなかったが、血管内皮細胞の管腔形成過程を阻止することが内皮細胞の培養実験で示された。
つまり、シメチジンは血管内皮細胞の管腔形成を阻害して腫瘍血管の新生を阻害し、がん組織の増殖を抑える可能性が示唆された

【文献2】
The effect of H2 antagonists on proliferation and apoptosis in human colorectal cancer cell lines.(ヒト大腸がん細胞株の増殖とアポトーシスにおけるH2ブロッカーの効果)Dig Dis Sci. 49(10):1634-40.2004
(要旨)
シメチジンが胃がんや大腸がんの患者の生存率を高めることが報告されている。シメチジンの抗腫瘍効果のメカニズムとして、サプレッサーT細胞活性の抑制による免疫増強作用、がん細胞の増殖抑制などが報告されている。この研究では、2つの大腸がん培養細胞株(Caco-2 , LoVo)を用いて、がん細胞の増殖や細胞死(アポトーシス)に対するヒスタミン、シメチジン、ラニチジンの影響を検討した。
ヒスタミンは大腸がん細胞の増殖に対して影響しなかった。Caco-2細胞の増殖はラニチジン単独および、ラニチジン+ヒスタミンで抑制された。一方、シメチジンは、Coco-2細胞の活性を、ヒスタミンの存在下でのみ抑制した。シメチジンとラニチジンはLovo細胞の増殖には影響しなかった。
シメチジンとラニチジンはCaco-2細胞にアポトーシスを誘導したが、LoVo細胞に対してはラニチジンだけがアポトーシスを誘導した。がん細胞に対する直接的なアポトーシス誘導作用がシメチジンやラニチジンの抗腫瘍効果と関連しているかもしれない。

文献2は大腸がん細胞に対してシメチジンが直接的な殺細胞作用を示すことを報告していますが、文献1で大腸がん培養細胞に対して直接がん細胞を殺す作用は無いが、生体に植え付けた場合には、腫瘍の増殖を抑え、その理由として血管新生阻害作用による作用と考察しています。したがって、この2つの報告は、若干矛盾するのですが、どちらもシメチジンが大腸がんに対して抗腫瘍効果を発揮することは共通しています。

シメチジンが脳腫瘍に効く可能性がある

Cimetidine, an unexpected anti-tumor agent, and its potential for the treatment of glioblastoma  (神経膠腫に対するシメチジンの抗腫瘍効果と治療に対する可能性) Int J Oncol. 28(5):1021-30. 2006
この論文では、シメチジンが神経膠腫に効果がある可能性を報告しています。マウスの脳内にヒトの神経膠腫細胞を移植した実験モデルで、神経膠腫の治療に使用されるテモダール(temozolomide)とシメチジンを併用すると、テモダール単独よりも延命効果があることを報告しています。

●シメチジンは抗がん剤によって誘導されるE-セレクチンの発現を抑制する

Increase in E-selectin expression in umbilical vein endothelial cells bu anticancer drugs and inhibition by cimetidine. (抗がん剤による臍帯血管内皮細胞におけるE-セレクチンの発現亢進とシメチジンによる阻害)Oncol Rep 22(6):1293-1297, 2009
抗がん剤は血管内皮細胞のE-セレクチンの発現を亢進する作用がある。E-セレクチンはがん細胞の転移を促進する。この研究では、抗がん剤で発現が亢進するE-セレクチンの発現をシメチジンが抑制することを報告している。抗がん剤治療にシメチジンを併用すると、転移を抑制できる可能性が指摘されている

シメチジンの処方:

シメチジンは胃・十二指腸潰瘍や逆流性食道炎や急性胃炎などの治療において胃酸分泌を抑える目的では保険適応になりますが、がん治療の目的では保険適応されません。しかし、安価な薬ですので、自費診療でも使いやすい薬です。
当クリニックでは、1錠(200mg)を25円(税込み)で処方しています。1日服用量は4錠です。
1日分が100円、1ヶ月分が3000円です。
免疫増強・血管新生阻害・アポトーシス誘導・転移抑制などの抗腫瘍効果があり、臨床試験で再発予防や延命効果が証明されていますので、抗がん剤治療中や再発予防の目的で併用する価値は十分にあります。
手術後の免疫力低下を抑える効果も指摘されていますので、手術後早期の服用も有効です。
処方については、メールか電話(03-5550-3552)でお問い合わせ下さい。

シメチジン服用の際の注意点:

副作用としては、めまい、軽度の不眠(1日800-1600mgの投与において)、可逆性錯乱状態(腎臓や肝臓機能の低下している高齢者において)、胃腸の不快感、女性化乳房(1ヶ月以上の服用)血清トランスアミナーゼの可逆的な用量依存的な上昇、一過性のクレアチニン上昇などがあります。
シメチジンは薬物代謝酵素P450(CYP) 1A2, 2C9, 2D6, 3A4 を阻害します。このうちCYP3A4と1A2の阻害がもっとも重要です。
theophylline, aminophylline, metoprolol, nifedipine, quinidineの代謝を阻害して血中濃度を上げます。 beta-blockers, metoprolol , propranololの代謝を阻害することによって徐脈や低血圧の原因となります。つまり、これらの薬を服用している時には、シメチジンの服用は危険です。
シメチジンの内服はclarithromycin の吸収を遅らせる作用があります。
妊娠中に服用しても胎児の奇形を起こすことは報告されていません。

 
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