【コメント】
肝臓に転移を認める膵臓がんの予後は極めて悪いのが実情です。
通常、gemcitabine(ジェムザール)やTS-1などの抗がん剤が主体になりますが、その効果は満足できるものではなく、多くは数ヶ月から1年程度の生存期間しか期待できません。しかも、抗がん剤治療の副作用で生活の質(QOL)が低下することも問題です。
この症例報告では、抗酸化作用と抗がん作用のあるアルファリポ酸の比較的大量の投与(静脈注射と内服)と、内在性オピオイドであるβエンドルフィンの産生を高めて免疫力を増強する低用量ナルトレキソン療法の併用によって長期生存した進行膵臓がんの症例が報告されています。がんの縮小は見られませんが、増大せず、しかもQOLが良い状態で生活できているという点で、十分に効果があると言えます。
内因性オピオイドの一種のメチオニン-エンケフェリンは別名「Opioid growth factor(オピオイド増殖因子)」とも呼ばれ、がん細胞の増殖を抑制する作用が報告されています。オピオイド増殖因子の受容体が膵臓がんや肝臓がん、卵巣がん、頭頸部扁平上皮がんなど多くのがん細胞に発現しており、オピオイド増殖因子(=メチオニン-エンケフェリン)が結合すると、細胞の増殖がストップすることが報告されています。
膵臓がん細胞を移植した動物実験においてメチオニン-エンケフェリンを投与すると、がんの縮小や延命効果が得られることが報告され、進行した膵臓がん患者を対象にした臨床試験でも腫瘍縮小効果が報告されています。
このような研究結果は低用量ナルトレキソン療法によって内因性オピオイドのメチオニン-エンケファリンやベータ-エンドルフィンの産生増加が膵臓がんなど多くのがんに対して治療効果を示すことを一致しています。
さらに、抗酸化作用のあるアルファリポ酸やセレニウムなどを併用して酸化ストレスを軽減すると、さらに、免疫細胞の活性を高め、がん細胞の増殖を抑える効果が高まります。
抗酸化作用と免疫力増強という観点から漢方治療や、抗炎症作用と免疫寛容の軽減の目的でCOX-2阻害剤のセレブレックスを併用すると、さらに抗腫瘍効果が高まる可能性があります。
メラトニンの免疫力増強や抗ストレス作用の発現に内在性オピオイドを介した作用機序が報告されています。ただ、メラトニンの免疫増強作用をナルトレキソンが増強するという報告と阻害するという相反する意見があります。しかし、低用量ナルトレキソン療法で内在性オピオイドを活性化する効果はメラトニンの抗腫瘍効果を高める可能性があります。
1ヶ月分の費用は、低用量ナルトレキソンが15,000円、メラトニンが5000円です。COX-2阻害剤のセレブレックスが18,000円です。
アルファリポ酸を点滴で600mgを投与する場合は1回に20,000円ですが、アルファリポ酸のサプリメントは安く販売されています。
それほど費用がかからず、副作用はほとんど無いので、進行がんの代替療法としては、試してみる価値があると思います。
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