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手術で完全に切除したつもりでも再発することがある
がん組織を十分な距離をおいて切除し、周囲のリンパ節を廓清し、他の臓器への転移が見つからなかった場合、その手術は治癒切除といいます。がんを根こそぎ切除して、体にがんは残っていないと考えるわけですから、治癒切除の場合は理論的にはがんの再発は起こらないはずです。しかし、このような治癒切除でも10−20%は5年以内に再発しているという事実があります。その理由は、がんは血液やリンパ液に乗って離れた臓器に飛んで行き、そこで新たな腫瘍(転移)を形成する性質をもっているからです。
たとえ原発巣が小さくても肉眼的に見える大きさになったがんは既に転移している可能性があり、転移巣が小さいうちは診断できませんので、手術で目に見える腫瘍を切除したつもりでも、再発する可能性があるのです。
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見つかった段階でがんの半数くらいは転移している
がんは数mmくらいの大きさになると、がん組織を栄養する血管(腫瘍血管)が出来ており、栄養や酸素を得て活発に増殖すると同時に、その血管を介して血液中にがん細胞が放出される可能性がでてきます。大雑把にいって、直径1cmのがん組織(約0.5グラム)には約5億個のがん細胞がいます。つまり、がんが発見される大きさになったときには、数億個以上のがん細胞の一部が、腫瘍血管を介して転移している可能性があるのです。
健康診断やがん検診で見つかったものでも、胃がんや大腸がんの約5%、肺がんの約20%に、診断された時にすでに他の臓器への転移(遠隔転移)が見つかっています。検診以外で診断されたものも全て含めると、胃がんや大腸がんの約20%、肺がんの約40%において診断時に遠隔転移が見つかっています。これらはレントゲン検査やエコー検査で見つかるものだけであり、目に見えないレベルの微小ながん転移の存在はもっと多い(5割以上)と考えるのが妥当です。
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がんの再発は防げる
野菜や大豆製品の摂取量が多いとがん治療後の予後(生存期間)が良好であることが報告されています。例えば、877症例の胃がんの手術後の生存率と食生活の関連を検討した愛知がんセンターからの報告によると、豆腐を週に3回以上食べていると、再発などによるがん死の危険率が0.65に減り、生野菜を週3回以上摂取している場合の危険率は0.74になることが報告されています。
このように、食事の内容だけでがんの予後(生存期間)を良くすることができるということは、その延長上の事を行えばさらにがん再発を予防できることになります。野菜や大豆というのは、抗酸化力や肝臓の解毒機能を高めたり、種々の抗腫瘍作用が報告されているのですが、漢方薬に使われる生薬も同様の作用でさらに強い効果を持っています。つまり、がん予防効果を持ったものをたくさん利用すればがんの再発や転移もさらに予防できることになります。
しかし、単に野菜や大豆を多くとるというだけでは十分ではありません。がんは全身病であり、がんが増殖しやすいような体内環境にあるときは、たとえがん組織を取り除いても、また再発していきます。体力や免疫力の低下があるときには、それを改善してやることががんの再発予防の基本になります。がん組織は氷山の一角であり、水面下にある治癒力低下の要因を取り除くことが大切です。そのために、漢方薬や健康食品や一部の医薬品が役に立ちます。
図:がん組織は氷山の一角。たとえがん組織を除去しても、体の治癒力を低下させる要因や、がんの発生を促進させる要因が改善されない限り、再びがんが発生(再発)してくる。
がんは、氷山の一角です。その下には、がんになりやすい体質という大きな山が潜んでいます。1個のがんが出たということは他にもがんができやすい状態になっているということです。またがんは広がりやすい性質も持っています。その意味でがんは全身病です。しかも目に見えるようになったときには、1グラムで10億個からのがん細胞があります。したがって、がんは小さい、見えないうちから手を打たなければいけないのです |
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リスク別・がんの種類別の再発予防法が必要な理由
再発がんの多くは治療が困難です。手術した段階では早期のがんであっても、再発した時点で進行がんや末期がんと言われる状態になるのです。だからこそ再発防止に力を注ぐ必要があるのです。しかし、再発のリスクは、患者さん個々に異なります。リスクのレベルに応じたオーダーメイドの対策でなければ実用的ではありません。例えば、
1)早期がんで治癒切除したよう再発リスクが非常に低い人(5年生存率95パーセント以上の状況)は、生活習慣や食生活の改善だけで十分だと思います。ただし、がんが発生したと言う事は、体の治癒力や免疫力の低下など、発がんしやすい要因(体質)があることを意味するので、免疫力や抗酸化力をたかめるサプリメントや漢方薬の使用は有用です。
2)がんが進行していて、手術後に抗癌剤治療などの補助療法を受けなければならないような場合は、より積極的な対策が必要です。手術後に抗癌剤治療を行うのは、すでにがんが転移している可能性があるからです。抗がん生薬を使った漢方治療を基本にしながら、場合(がんの種類)によっては、がん予防効果のあるCOX-2阻害剤のcelecoxib(商品名:セレコックス)を併用します。
3)ほぼ確実に再発が予想されるくらいがんの進行度が進んでいる場合や、目にみえるがん転移は切除したが、目に見えない微小転移の可能性が常識的に考えられるような場合は、抗がん漢方薬やCOX-2阻害剤に加えて、血管新生阻害作用のある医薬品(サリドマイドなど)や抗がん作用をもったサプリメント(アルテミシニン、メラトニン、ジインドリルメタン、キサントンなど)の併用も積極的に考慮します。
また、がんの種類によっても、再発予防対策が異なります。
COX-2活性阻害による増殖抑制が報告されている大腸がん、前立腺癌、乳がんなどではCOX-2阻害剤の使用を早い段階から考慮します。
血管新生阻害作用やTNF-α阻害作用をもつサリドマイドは、多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、悪性神経膠芽腫、腎臓がん、肝臓がん、前立腺がん、小細胞性肺がん、各種の肉腫など、サリドマイドの有効性が報告されているがん種では使用してよいと思います。
免疫力や抗酸化力を高めるサプリメントや、抗がん作用をもったサプリメントは、食事療法の補助として活用できます。
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漢方薬を用いた再発防止
東洋医学では、冷え性、虚弱、気の巡り、血の巡りが悪い、気うつなどということを、がん体質であると考えます。まず、こうした体質を改善し、悪い状態をいい状態にすることが漢方薬によるがん再発予防の基本になります。漢方では、その人が持つ体質のウィークポイントを見直すことによって体の基盤そのものを底上げするのです。
再発防止のための体質改善のポイントは、(1)免疫力を上げる、(2)抗酸化力を高める、(3)組織の血液循環や新陳代謝をよくする、(4)腸内環境を整備して、解毒機能を高める、の4つです。
再発リスクの低いがんの段階なら、この体質改善によって、かなりの程度防ぐことができるのですが、もう少し再発リスクが高くなれば、それだけでなく、がん予防に効果があるといわれる抗がん生薬を用います。植物に含まれる成分の中には、がん細胞の増殖を抑えたり、血管新生阻害作用や抗炎症作用を示すものがあり、これらを利用することによって、体内に残ったがん細胞の増殖を抑えて再発を予防することができるようになります。
漢方薬は複数の生薬を煎じて服用する煎じ薬を用います。粉末のエキス剤(煎じ薬をインスタントコーヒー状に粉末化したもの)では、抗がん作用を発揮する精油成分がほとんど蒸発してしまうので、効き目がかなり落ちるからです。
通常、病状や体質に合わせて、20種類前後の生薬を調合して漢方薬を作ります。 どのような生薬を用いるかというと、たとえば元気を高める高麗人参や黄耆、がんに効果のある霊芝や半枝蓮や白花蛇舌管、血の巡りをよくする桃仁、牡丹皮、造血機能を高める当帰、芍薬、胃の調子をよくする白朮、生姜などです。
免疫力を上げることは必要ですが、免疫力を上げるだけでは意味がありません。免疫力を上げるには胃腸の状態をよくする必要がありますし、栄養が十分吸収されるためには血のめぐりがよくないといけないし、水分代謝もよくないといけないのです。このように体全体を総合的に考えて生薬を組み合せていくのが漢方治療です。 |
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進行胃がんの再発予防を目的とした漢方治療の例
Kさんは胃がんで胃の全摘出手術を受けました。がんは胃壁の筋肉層に達し、周囲のリンパ節にも転移が1個見つかりましたのでやや進行したがんです。肺や肝臓には肉眼的な転移は見つかりませんでしたので、手術によってがんを全て摘出されたと考えられましたが、目に見えないがんが残っている可能性があるので手術後に内服の抗がん剤が処方されました。
胃を全部取っているために十分に栄養を吸収できないためか、3ヶ月後の体重は手術前より10kgも減っていました。疲れやすく、免疫力の低下による再発を心配して漢方治療を希望して私の外来を受診しました。
Kさんは、軽度の貧血と低蛋白があり、栄養が十分に取られていない状態でした。そこで、腸の働きを助けて気の量を増す漢方薬である「補中益気湯」(構成生薬:人参・黄耆・白朮・当帰・柴胡・大棗・生姜・陳皮・升麻・甘草)をベースにして、血を補う補血薬の芍薬・川きゅう・丹参、血の巡りを良くする駆お血薬の紅花・莪朮、抗がん生薬の白花蛇舌草を加えた漢方薬から開始しました。
漢方薬を服用し始めてから1ヶ月くらい経過すると、食欲が出て体力もついてきたと感想を述べていました。さらに抗がん生薬(三稜・半枝蓮など)を追加しながら、体調に応じて漢方薬を加減しながら漢方治療を続けています。術後4年目ですが、体重や体力は手術前以上に回復し、再発の徴候もなく経過しています。
Kさんの場合は、治癒切除ですが、既にがんが転移している可能性があるために、主治医から術後の抗がん剤治療を勧められ、抗がん剤を内服している、という事情があります。胃を全部切り取っているために、栄養が悪い状態で、抗がん剤でさらに免疫力を落とすと、がんが再発しやすい状態になると考えられます。このような時には、積極的に漢方治療を併用することは、がんの再発予防に効果があります。
○ 再発予防における術後補助化学療法と漢方治療の考え方の違いについてはこちらへ:
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がん剤治療後のがん再発は漢方薬とCOX-2阻害剤の組み合わせで防ぐ
Sさんは大腸に直径が約5cmほどの大きさのがんがみつかり、腫瘍の摘出手術を受けました。手術前には大腸がんの腫瘍マーカーの一つであるCA19-9が800ng/ml以上(正常は37 ng/ml以下)と高い値でしたが手術後は30まで下がりました。肝臓や肺には肉眼的に見える転移はありませんでしたが、手術の時に摘出したリンパ節の2個に転移が見つかりました。
手術後は内服の抗がん剤で治療していましたが、8ヶ月後に腫瘍マーカーのCA19-9が100を超えたので検査したところ肝臓に2cmくらいの転移が見つかり、肝臓の転移巣を切除する手術を受け、注射による抗がん剤治療を受けました。腫瘍マーカーは正常値に戻りましたが、再発する危険が高いので、内服の抗がん剤を服用すると同時に漢方治療とCOX-2阻害剤(セレブレックス)を使った治療を併用しました。漢方治療開始後3年経過していますが、今の所、腫瘍マーカーは上昇していません。
全身にばら撒かれえるというがん転移の性質上、もし一個の転移巣が見つかれば、目に見えないレベルの転移巣は他の部位にも存在すると考えるべきです。
大腸がんの肝臓転移では、目に見える転移が少数であれば転移巣を切除するほうがより長く生存できることが報告されています。目に見えないがん転移巣が肝臓全体に広がっている可能性は高いのですが、大きな転移巣を取り去ったあとに、残った目に見えないがん細胞を抗がん剤などで増殖を抑制すれば、がんで死亡するまでの時間稼ぎができるからです。残ったがん細胞が少なければ、免疫力や自然治癒力を高めてやるだけでがんの増殖を押さえ込むことも可能です。
Sさんのようなケースでは抗がん剤だけでがんを抑え込むことは限界があります。抗がん剤の副作用で免疫力が低下すれば、残ったがん細胞の増殖が早められる可能性さえあるのです。免疫力を高める漢方治療を抗がん剤治療に併用することは再発予防に有益であることは間違いありません。
さらに、大腸がん細胞はCOX-2阻害剤で増殖が抑えられる可能性が高いがんですので、COX阻害剤のセレブレックスを併用すれば、さらに再発予防効果が期待できます。
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多重がんの発生予防に食生活や生活習慣の改善と漢方治療が有効
Fさんは12年前に胃の早期がんで手術を受け、8年前には右の乳がんで治療(手術と抗がん剤)を受けました。胃がんと乳がんの再発は今の所ないのですが、最近大腸にポリープが見つかり、内視鏡でポリープを切除して調べたところ、ポリープの一部にがんがみつかりました。幸い小さな初期がんでしたの転移の心配は少ないと主治医から説明を受けましたが、年に一回大腸の検査を受けるように指導を受けました。
胃がんで胃を3分の2切除しているFさんは食事には十分気をつけており、野菜中心の食生活を守り、タバコや酒も嗜まず、適度な運動や健康食品の利用など、食生活も生活習慣もがん予防の基本を守っていました。しかしそれでも3つもがんを経験したため、自分ががん体質だと感じたFさんは、さらに積極的にがんの予防を実践したいと希望して漢方治療を受けることにしました。
西洋医学的な血液検査では全く問題ないのですが、漢方的に診察すると、肌の乾燥や手足の冷えなどがあり、血液や体液の循環が悪い状態(お血と水滞という)に血虚(貧血や栄養状態の不良)の傾向もありましたので、そのような異常を改善する漢方薬である当帰芍薬散(構成生薬:当帰・芍薬・川きゅう・蒼朮・茯苓・沢瀉)をベースにして、がん予防効果のある生薬(紅参、霊芝、白花蛇舌草、木香など)を追加して煎じ薬として処方しました。
がんの一次予防(がんにならないようにすること)に推奨されている食生活や生活習慣を完全に守っているのにがんにかかる人も多くいます。それは遺伝的なものや体質が関連しているようです。Fさんの場合、漢方治療がどの程度の効果を示すか予想できませんが、体の不調を治して体の抵抗力や治癒力を高めることが悪いことはないはずです。
最近では、がんが治ったあとに、二つ目のがん、三つ目のがんにかかる人が増えてきました。転移ではなく、胃がんの次に前立腺がん、その次に肺がんなどといったように全く別の部位に新たながんができることです。一人の人に幾つものがんに発生することを多重がんといいます。 治療方法が進んで治るがんが増えてきたことが原因の一つに挙げられるのですが、がんになる人は免疫力の衰えなど他のがんにもなるリスクも高くなっているのが一般的です。時にはがんの治療(抗がん剤や放射腺照射)が新たながんをつくり出すこともあり、これを2次がんといっています. 医学の進歩によってがんを取り除く治療法が進歩してくると、がん治療の宿命である再発や多重がんや2次がんの発生を予防することががん死から免れるキーポイントとしてクローズアップされてきたのです。
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免疫力や抗酸化力を高めるサプリメント
漢方薬や血管新生阻害剤(サリドマイドなど)、COX-2阻害剤などの医薬品によってがん細胞の増殖を抑える方法に加えて、さらに体の免疫力や抗酸化力や解毒力を高める方法を併用することは、がんの再発を抑える上でプラスになります。
抗がん力を高め再発を予防する上で役に立つサプリメントとして以下のようなものがあります。詳細はそれぞれのサイトをご参照下さい。
メラトニン:免疫増強作用と抗酸化作用をもちます。
R体αリポ酸&セレン:抗酸化力と免疫力を高めることによって、がんの再発と2次がん(がん治療の後遺症として発生するがん)を予防します。
アルテミシニン誘導体:がん細胞を殺す作用と血管新生阻害作用が報告されてます。
キサントン:マンゴスチン果皮に含まれる抗がん成分です。抗酸化作用とCOX-2阻害作用が報告されています。
IP-6 & イノシトール:ナチュラルキラー細胞活性を高めます。
コエンザイムQ10:抗酸化力を高めます
マルチビタミン・ミネラル:ビタミンやミネラルの不足は体の治癒力を低下させます。
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以下のサイトでは、がんの再発予防に有効な多くの方法を詳しく解説しています。
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