●前立腺がんの補完・代替医療
前立腺がんの多くは手術、ホルモン療法、放射線療法、抗がん剤といった標準的治療が有効です。しかし、これらの標準的治療が効きにくくなった場合は以下のような補完・代替医療を行うと、生活の質(QOL)の改善や延命に有効です。前立腺がんの発生や再発の予防に有効なサプリメントもあります。
サリドマイドは血管新生阻害作用など様々な機序で前立腺がんの増殖を抑えることが臨床試験などで確かめられています。 サリドマイドについてはこちらへ:
COX-2阻害剤のセレブレックスは、プロスタグランジンの産生抑制やがん細胞の増殖抑制、血管新生抑制などの抗腫瘍効果が知られており、セレブレックス単独で前立腺がん細胞の増殖を抑制することが報告されています。 セレブレックスについてはこちらへ:
マラリアの特効薬として使用されているアルテミシニン誘導体製剤は、多くの悪性腫瘍に対して殺細胞作用を示すことが報告されており、サリドマイドやセレブレックスとの相乗効果が指摘されています。血管新生阻害作用も報告されています。 アルテスネイトについてはこちらへ:
アブラナ科植物から見つかった抗がん成分のジインドリルメタンは、前立腺がん細胞に対して抗腫瘍効果を示し、米国ではサプリメントとして販売されています。 ジインドリルメタンについてはこちらへ:
抗腫瘍活性が経験的に知られている生薬として半枝蓮、白花蛇舌草、竜葵、莪朮、三稜などがあります。これらの抗がん生薬に、病状や体力に応じて滋養強壮薬や免疫力を高める生薬などを組み合せた漢方薬を服用すると、がん細胞の増殖を抑えると同時にがんに対する抵抗力や治癒力を高めることができます。 漢方治療についてはこちらへ:
ノスカピンは咳止めとして使用されますが、細胞分裂の時に重要な役割を果たす微小管の働きを阻害する作用があるため、がん細胞の増殖を抑える効果があります。内服で効果があり、副作用の少ないという特徴があります。臨床試験で前立腺がんに対する有効性が報告されています。 ノスカピンについてはこちらへ:
その他、ω3系不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)のサプリメントは、COX-2阻害剤の抗腫瘍効果を増強します。 ウクライン(Ukrain)は、免疫力を高め、腫瘍血管の新生を阻害し、腫瘍細胞にアポトーシスを誘導する作用が多くの腫瘍で確認されています。
前立腺がんの進行状況や、体力や免疫力の状態に応じて、組み合わせを考えます。 正常細胞に対する毒性が少なく、抗がん剤のような副作用が少ないので、QOL(生活の質)を悪化させないで、前立腺がんの進行を抑えることが可能です。うまく効果が噛み合うと、がん組織の縮小も可能です。
【サリドマイドの抗腫瘍効果の作用機序】 ○ 腫瘍血管の新生を促進するVascular Endothelial Growth Factor(VEGF,血管内皮増殖因子)、Tumor Necrosis Factor-α(TNF-α,腫瘍壊死因子アルファ)、Interleukin(IL)-8の産生や活性を抑えます。シクロオキシゲナーゼ-2の発現を抑えることによって、血管新生を刺激するプロスタグランジンの産生を抑える作用も報告されています。 ○ 血管新生阻害作用以外にも、がん細胞のアポトーシス抵抗性を減弱させ、T細胞受容体を介したT細胞の反応性を高め、T細胞の増殖を刺激し、IL-2とインターフェロン-γの産生を高め、ナチュラルキラー細胞数を増加させる効果など様々な抗腫瘍効果が知られています。 ○ TNF-αの産生を抑えることによって、TNF-αの刺激で血管壁に発現する接着因子のintracellular adhesion molecule-1 (ICAM-1)、vascular-cell adhesion molecule-1 (V-CAM-1)、E-selectinの 産生を抑えることによってがん細胞の転移を抑制する効果も期待できます。 以下のような臨床試験の結果が報告されています。 【前立腺がんに対するサリドマイドの効果】 ○ 転移しているアンドロゲン非依存性の前立腺がん50例を、サリドマイド200 mg/日で治療し、PSAの50%以上の低下を18%の患者に認めた。(Clin. Cancer Res. 7: 1888-1893, 2001) ○ 転移したアンドロゲン非依存性の前立腺がん22例にGranulocyte-macrophage colony stimulating factor (GM-CSF) とthalidomide (200mg/日)を併用。治療開始2週目に全例でPSAが低下。4週後に50%以上のPSA低下が5例で見られた。(Urol. Oncol,23:82-86,2005) ○ アンドロゲン非依存性前立腺がん(75例)で、docetaxel単独群(25例)と、docetaxel+サリドマイド(200mg/日)の併用群(50例)を比較。平均26.4ヵ月の観察で、50%以上のPSA低下が、docetaxel単独群が37%に対してサリドマイド併用群が53%。progression-free survivalの平均期間はdocetaxel単独群が3.7ヵ月に対してサリドマイド併用群が5.9ヵ月。18ヵ月後の生存率はdocetaxel単独群が42.9%に対してサリドマイド併用群が68.2%。サリドマイド併用群では低分子量ヘパリンを血栓症予防の目的で使用。(J. Clin. Oncol. 22:2532-2539, 2004)
○ 転移しているアンドロゲン非依存性の前立腺がん50例を、サリドマイド200 mg/日で治療し、PSAの50%以上の低下を18%の患者に認めた。(Clin. Cancer Res. 7: 1888-1893, 2001) ○ 転移したアンドロゲン非依存性の前立腺がん22例にGranulocyte-macrophage colony stimulating factor (GM-CSF) とthalidomide (200mg/日)を併用。治療開始2週目に全例でPSAが低下。4週後に50%以上のPSA低下が5例で見られた。(Urol. Oncol,23:82-86,2005) ○ アンドロゲン非依存性前立腺がん(75例)で、docetaxel単独群(25例)と、docetaxel+サリドマイド(200mg/日)の併用群(50例)を比較。平均26.4ヵ月の観察で、50%以上のPSA低下が、docetaxel単独群が37%に対してサリドマイド併用群が53%。progression-free survivalの平均期間はdocetaxel単独群が3.7ヵ月に対してサリドマイド併用群が5.9ヵ月。18ヵ月後の生存率はdocetaxel単独群が42.9%に対してサリドマイド併用群が68.2%。サリドマイド併用群では低分子量ヘパリンを血栓症予防の目的で使用。(J. Clin. Oncol. 22:2532-2539, 2004)
シクロオキシゲナ−ゼ-2(COX-2)はプロスタグランジンを産生する酵素で、大腸がんや乳がんなど多くのがんの発生や増殖に関わることが知られており、COX-2の選択的阻害剤であるセレブレックス(一般名:celecoxib)が、様々な腫瘍に対して抗腫瘍効果を発揮することも多くの報告があります。 前立腺癌に対しても、セレブレックスが抗がん作用を示すことが報告されています。 例えば、2004年の第40回米国臨床腫瘍学会(ASCO)では、ノースカロライナ大学の泌尿器科のグループから、セレブレックスが再発性前立腺がんの進行を遅延することが報告されています。 この研究では、PSA上昇によって再発が認められた前立腺がん患者24例にセレブレックスを1日400mg投与し、1年以上にわたりフォローアップしています。3ヶ月後には、24例中22例(92%)で有意なPSAの抑制効果(PSA上昇率の低下)が認められ、11例(46%)でPSAが低下または安定しました。 米国マイアミ医科大学の泌尿器科グループからの研究では、前立腺がん組織における間質細胞(骨髄由来骨芽細胞)から産生されるCOX-2活性が、がん細胞の抗がん剤抵抗性を増し、抗がん剤が効きにくくする可能性を、培養細胞を使った実験で示しています。 前立腺がん細胞のPC-3MLと骨芽細胞(前立腺がん関連の間質細胞)を一緒に培養するとPC-3ML細胞の抗がん剤感受性が低下し、抗がん剤(タキソテ−ルなど)で死ににくくなりましたが、この抗がん剤抵抗性はCOX-2阻害剤のセレブレックス(celecoxib)を添加することによって減弱しました。そのメカニズムとして、セレブレックスががん細胞のアポト−シス(細胞死)に関連する蛋白質の活性に影響していることを報告しています。 マウスに前立腺がん細胞( PC-3ML)を移植して行った実験でも、セレブレックスは移植腫瘍の増殖を抑制し、タキソテールなどの抗がん剤の効果を高めることが確認されています。 前立腺がんの治療後にPSAが増加しだした再発患者に対してセレブレックスを投与すると、PSA上昇速度が低下あるいは減少に転じる(増殖抑制あるいは腫瘍縮小効果)ことがプラセボ比較試験で明らかになっています。 以上の結果より、再発や進行した前立腺がんに対してホルモン療法や抗がん剤治療を行うときに、COX-2阻害剤のセレブレックス(1日400 mg)の併用は有効と考えられます。
以上の結果より、再発や進行した前立腺がんに対してホルモン療法や抗がん剤治療を行うときに、COX-2阻害剤のセレブレックス(1日400 mg)の併用は有効と考えられます。